平成15年度国際インターンシップ派遣体験記

環境科学研究科
中東・中央アジア地域研究分野
博士後期課程2年
伊藤 雄高

研究課題: 現代スーダンにおける人的流動のダイナミクス −政治統合と文化乖離の葛藤をめぐって−
派遣期間: 平成16年2月21日 〜 平成16年3月24日
派 遣 先 : CEDEJ ハルトゥーム支部
受入教官: Francois Ireton

私は,平成15年度の国際インターンシップ派遣で,CEDEJ(Centre d'Etudes et de Documentation Economique, Juridique et Sociale)ハルトゥーム支部を受け入れ先として,約1ヶ月間スーダンに行ってきました。CEDEJは,エジプ ト・中東地域の研究のためにカイロに設立されたフランスの公的な研究・調査機関で,ハルトゥーム支部は現代スーダン社会の調査を行っています。ハルトゥーム中心街から車で15分くらいの住宅街にあるフラットをオフィスにしており,今回の受入れ教官であり,支部の唯一人の研究員であるFrancois Ireton氏がマネージメントをしています。オフィスは研究員の住居とゲストの宿泊所も兼ねており,私もCEDEJのスタッフで満室の時以外には,基本的にここで寝泊りさせてもらいました。
 現在CEDEJハルトゥーム支部の活動の中心となっているのは,EUの資金援助を受け,ハルトゥーム大学,及び中央統計局(CBS: Central Bureau of Statistics)と共同で進めているMapping Population for Sudan Using GIS Techniques Joint Projectです。これは,行政単位(村落)ごとに人口データを地図上にインプットしていくもので,インフラ整備,学校建設,軍事政策など様々な政策立案に利用されることになると言います。
また,プロジェクトでは,これまで官庁などで使われることの多かった1970年代作成のロシア製,ドイツ製のスーダンの国土地図を土台として,GIS(地理情報システム)を使って村落のロケーションや行政境界線など修正し,より正確な国土地図を作成することも目的としています。現在のところ,内戦の影響でプロジェクトの範囲は北部スーダンに限られ,データも1993年国勢調査と2002年のCBSによる抽出調査によって得られたものだけですが,将来的には南部スーダンも含め,近く行われる予定の次の国勢調査や過去の国勢調査のデータも加えることも考えられており,それが実現すれば,スーダンの人口研究に大きく貢献するものと思われます。
 今回の派遣では,このプロジェクトを視察し,簡単なお手伝いをさせていただいた他に,スーダンの人口移動に関する文献・資料収集も重要な目的としていましたが,この点に関しては,事前の調査不足もあり,思ったほどの成果はあげることができませんでした。しかし,現地の研究者と交流を深めることができたこと,他所の国のスーダン研究者の知遇を得られたことは今後の研究に大きなプラスとなったと思います。特に,Ireton氏を始めとするフランス人研究者たちと寝食を共にしたことは,それ自体非常に貴重な経験であったと共に,彼らと議論をし,彼らの議論を見る(白熱するとフランス語になってしまうので)ことができ,日本ではとかく文献とにらめっこして独り善がりな研究になりがちだったので,とても新鮮に感じられ,大きな刺激となりました。そして何よりも,自分の研究対象地域を,良いものも悪いものも含め,直接肌で感じることができたのが一番の収穫であったと思います。