研究内容

治療の練習や医療機器の開発のためのプラットフォームを提供する

バイオモデル

バイオモデルは,生体組織の形状や力学的特性を,高分子材料等で再現したモデルです. 主に医療機器のプロトタイプの評価や,手術の模擬訓練を通した医師のスキル向上,手術前の治療方針選定に用いられています. 私たちは,ポリビニルアルコールハイドロゲル(PVA-H)を用いることで,血管の力学特性を再現した血管モデルを世界に先駆けて開発しました. そして,その製造方法の開発,さらにその血管モデルを用いた,より生体に近い環境下での評価実験を行っています.

血管バイオモデル作製用PVA-H 3Dプリンタの開発

ポリビニルアルコールハイドロゲル(PVA-H)を用いた血管モデルは,本研究室で世界に先駆けて開発されました. 患者固有の形状を持つモデルを即座に作ることができるようになれば,手術直前に手技を確認するのに使用できることから,新たなモデル作製法として”PVA-H 3Dプリンタ”の開発を行っています. 現在は,工学的な試験による評価だけでなく医師による官能評価も行うことで,使用者によりリアルな感覚を与えることを目指しています.

Kobayashi, Naohiro, et al. "Development and Evaluation of PVA-H 3D Printed Blood Vessel Biomodels With Several Stiffness." ASME International Mechanical Engineering Congress and Exposition. Vol. 84522. American Society of Mechanical Engineers, 2020.

超音波診断装置対応の血管バイオモデルの開発

超音波(エコー)検査機は,生体内を簡便に観察できるため,多くの医療分野で用いられています.バイオモデルは新たに開発されるエコー検査機の評価をするに重要な役割を果たしております.この目的で使用するバイオモデルは,生体に近い形状と力学特性を持つだけでなく,検査機によって撮影される画像も生体に近い状態を表現する必要があるため,散乱体が含まれています.さらに外から血管内に挿入されているカテーテルなどの医療デバイスを見ることができるように透明であることも求められます.これらの条件を両立させるモデルの開発を行なっています.

より効果的で体に優しい医療機器や治療法の開発を行う

細胞実験

定量的な評価が難しい生体内の挙動を,実際に細胞を培養して生体外で実験をすることで,定量化を行っています. 私たちは,培養した細胞に流れなどの刺激を与えて,細胞の変化を観察することで,病変発生のメカニズムの解明を行っています.

ステント内皮化過程における流れとステント表面処理の影響の解明

細くなった血管を広げたり血液の流れを変えたりするために,ステントと呼ばれる医療機器を血管内に留置する治療が行われています.一般的にステントは金属の筒状の網で,血管内で網を広げて血管内に設置します.しかし,ステントを設置する際に血管内壁が損傷したり,留置されたステントによって血流が乱されたりする可能性があります.これらは血管の最も内側を構成する内皮細胞の層にダメージを与え,ステントを留置した血管が再び細くなったり詰まったりするリスクをもたらします.内皮細胞がステントを覆うことをステントの内皮化といい,内皮化は血管の再閉塞を防いでくれる可能性があります.本研究では,ステントの形状による流れの違い・ステントの表面処理の違いが内皮化にどのように影響するかを調べています.ステントと培養した内皮細胞を用いたin-vitro(生体外)流れ実験や,数値流体力学シミュレーションを用いた流れの解析を行っています.

CFD解析

CFD(computational fluid dynamics)解析とは,コンピューターを用いたシミュレーションによって,流速と圧力を算出し,流れの様子を解析することです.この手法を血流に応用し,血流の様子を可視化することで,血流に関わる病気の予測や治療法の開発を行っています.

フラッシュの放出条件最適化による血管内視鏡視野の改良

病気の診断のために,血管に内視鏡を入れて直接血管の様子を見る血管内内視鏡と呼ばれる医療機器があります. 血管内視鏡は,血管壁性状を直接観察する上で有用な医療機器です. 観察するには,カテーテル先端部からフラッシュと呼ばれる透明な液を放出して不透明な血液を除去します. しかしながら,身体への影響から,使用できるフラッシュの量に制限があり,血管壁が見えないことも多いのが現状です. そこで,CFD解析を用いてフラッシュの放出条件が血管内視鏡視野に与える影響を調べ,最適な放出条件を提案しています.

気道粘膜での飛沫生成の分析と可視化

新型コロナウイルスをはじめとして,人間社会は様々な感染症との戦いを続けてきました.空気感染や飛沫感染では,ウイルスは呼気の流れに乗って体から出てきます.体外におけるウイルスの広がり方を解明するため,現在ではコンピュータを使ったシミュレーションが注目されています.しかし,体内でどのように飛沫が生成されるのか,そのメカニズムは未だ分かっていないことがたくさんあります. 本研究では体内でどのように,どれくらいの量の飛沫が生成されるのか,シミュレーションを行い飛沫挙動の分析と可視化を行っています.

血液透析用シャント血管のCFD解析

血液透析は慢性腎臓病の治療法であり,最も主要な透析療法です. 日本国内で血液透析を受けている患者さんは30万人を超えます. 血液透析時には,前腕部から毎分200mL※程の血液を取り出しますが, 通常の前腕部の血管にはこれほど大量の血液は流れていません. 透析に必要な血液量を確保するため,前腕部の静脈と動脈を接続した「シャント血管」を作製します. シャント血管の作製により,動脈から静脈に大量の血液が流入し,静脈から透析に必要な血液量を取り出せるようになります. 一方で,この血管は接続部(吻合部)にて不自然な血流状態を引き起こすため,狭窄が頻発します. 狭窄の発症は透析続行を困難にするため,発症頻度を最小限化することが重要です. CFD解析によってシャント血管内の血流状態を分析・可視化することで, 狭窄が起こりにくい最適な血管形状を提案することを目指しています.

※日本国内での数値です.血液透析時に取り出す血液量は国によって異なります.

病気の診断や予測を助ける

機械学習

機械学習とは,コンピューターが大量のデータを学習し,分類や数値予測などのタスクを遂行する技術で,ディープラーニングは機械学習の一種です.私たちは,機械学習を用いることで,画像を用いた血流の瞬時予測や,病気を定量的・客観的に示すための標準的な血管形状の構築などに役立てています.

ディープラーニングによる血流動態予測

血管内の血流を把握することは,病気の治療や予測などに役立つと期待されてい ます.これまでは医療機器を患者に用いた血流計測や,コンピュータを用いた数 値流体力学(CFD)解析が行われてきました.しかし,計測では解像度の不十分性 が指摘され,またCFD解析では長い計算時間が問題でした. そこで,CFD解析に 代わる方法としてディープラーニング技術を用い,医療用画像から構築した血管 形状に対して流れ場を瞬時に,かつCFD解析と同程度の解像度で推定する技術を 開発しています.

画像からの血流推定の精度評価

脳血管疾患の診断・手術中では、医師が医療用画像を観察し血流に「見当」をつけています。そこで、「客観的に確からしい血流」を得るため、医療画像のデータと流れの理論に基づいた血流定量推定に取り組んでいます。 速度を推定するためにこれまでの研究では、流動的な血液の動きを捉えることができる種々の画像解析技術が提案されてきました。しかしながら、解析対象の医療用画像はその撮影条件によって見た目が異なることが知られています。そのため、各医療用画像に対応して最適な画像解析技術を選択する必要があります。様々な撮像条件下での医療用画像を必要としますが、実際の医療用画像を多く取得することは難しいです。そこで、シミュレーションを用いて医療用画像を模擬する方法をとろうと考えています。 また本手法を用いると、画像とその撮像条件を与えるだけで最適な血流推定を行うことができると期待されます。この利便性を生かし、将来には医療現場で即時に血流を推定することを目標にしています。

血管の形態学的情報からの病気リスク評価

血管内の血流状態を知ることは,病気の治療や予測などを行う上で非常に重要です. しかし,画像を撮影して血管の形態学的情報(カタチ)を得るのは比較的容易ですが,血流状態を直接測定するのは難しいです. そこで,形態学的情報から,病気のリスクを評価する手法を開発しています.

標準脳血管座標系の開発

「病気」は「健康な状態」でないことを表しますが,そもそも「健康な状態」とはどのような状態を指すのでしょうか? 脳血管・循環器系疾患では血管形状が変化する病気がありますが,どの程度まで位置,形状が変化すれば「病気」と判断するのでしょうか? これらの問題を考えるため,ヒトの実際の脳画像から抽出した脳血管の位置,形状を基に,日本人の「平均的な脳血管位置及び形状(標準脳血管座標系)」を構築する研究を行っています. 平均位置,平均形状を作り上げることで「平均値からの差異」を計算することが可能となり,脳血管疾患の定量的な診断基準や医療デバイス選定基準の策定につながることが期待されます.

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