専門バカの壁

 

 「バカの壁」という本がベストセラーになって久しい。この本の中で、授業中に寝ている大学生の話が出てくるが、仮に君が授業で寝ていなくても、自分が同類でないか、よく反省してみよう。

 大学の授業で教えている内容は、問題をどのように解決するのかという方法論である。工学部の授業では、たとえば数学の知識や物理学の知識に基づいて、問題を分析し解決する手助けを教えている。しかし、新しい問題に直面したときに、新しい着想を持って問題を定式化し解決することは、新しい問題に直面した人間の知的権利である。彼(彼女)にだけ、新たな知的世界を探検し、報告する権利が与えられている。

 しかし、新しい着想というものは、ぼーっとしていて得られるものではない。すでに既知であると思うっていることを新しい角度から見たり、他の分野で知られている方法論を新たに適用してみたりする、知的格闘が必要である。

 ところが、自分の狭い専門分野にのみ関係したことにしか興味を示さない人間が、しばしば存在する。ここに、専門バカの壁がある。狭い興味と限られた発想では、知的格闘を戦い抜くことはできない。

 この点、大学は、様々な分野の人間が集まり知的刺激を与えあう、理想的な場所である。それなのに、自分の専門のたこつぼに生息して、外を見ないようでは、それこそバカの壁だ。学生諸君には、大学にいることの利点を最大限に生かして、人類のあらゆる知的財産を吸収してほしい。