発表のポイント
- ミクロンサイズの微細粗さ(DMR:Distributed Micro-Roughness)を流線型物体に施工することで、遷移流域において最大43.6%の空力抵抗低減を世界で初めて実験実証した。
- 東北大学が世界最大級を誇る1m磁気支持天秤装置(MSBS)を用いた干渉フリー計測により、従来の風洞試験では困難だった微小な抵抗変化の精密計測を実現した。
- 壁近傍流れを高解像したLESとオイルフロー可視化の統合解析により、抵抗低減の主要因が流れの剥離抑制ではなく摩擦抵抗の低減であることを定量的に証明した。
研究の背景
英国・ドイツ・米国・日本で独立して層流翼研究が進む。日本の谷一郎博士が「層流境界層における許容粗さ」を発表(Tani et al. 1940)。表面粗さが層流化を妨げることを定量的に示した。以来、「滑らかな表面が最良」という原則が80年以上続く。
谷博士がNikuradseの粗面管実験データを再解釈(Tani 1989)。表面粗さと流れの関係に新たな視点をもたらす。
東北大学・小濱泰昭教授のグループが平板境界層実験において、繊維粗面が特定の条件下で遷移を遅延させる効果を実験的に示す(小栗&小濱 1996, 1998; Kikuchi et al. 2004)。
東北大学の研究グループがDNSにより、DMRが遷移流れにおける乱流エネルギーの成長を抑制し摩擦抵抗を低減できる可能性を世界に先駆けて定量的に示す(Hamada et al. 2023)。
世界最大級の1m-MSBSを用いた干渉フリー実験計測により、DMRによる大幅な空力抵抗低減を世界で初めて実験実証。谷博士の問いから始まった研究の系譜が結実。
研究装置・実験結果
引用:Yakeno et al. (2026) J. Fluid Mech.
引用:引用:Yakeno et al. (2026) J. Fluid Mech.
研究手法
試験模型の製作
NLF2-0415翼型を基にした全長約1.07mの流線型模型にDMRコーティング(ガラスビーズ型凸面・サンドブラスト型凹面、38〜53μm)を施工。トリップテープにより遷移流域を制御。
1m磁気支持天秤装置(MSBS)による計測
電磁力で模型を非接触浮遊させ、支持部材による干渉をゼロにした状態でRe = 0.35×10⁶〜3.6×10⁶の全抵抗係数を精密計測。測定精度0.36% F.S.(最大荷重2.87N)。
壁面解像ラージエディシミュレーション(LES)
最大4538万セル(y⁺ < 0.65)の高解像LESにより摩擦抵抗(Cf)と圧力抵抗(Cp)を分解。人工擾乱を導入しない層流LESにより、Blasius解と1%以内で一致する圧力抵抗の保守的上限値を確立。
動的オイルフロー可視化
高・低レイノルズ数条件下での表面流れパターンを動画記録。剥離・付着の有無を直接観察し、メカニズムを実験的に検証。
主な成果
抵抗低減メカニズムの証明
LESにより確立した圧力抵抗の保守的上限値:
Cp ≈ 0.00021
観測された抵抗低減量 ΔCD ≈ 0.001 はこの上限値の約5倍。圧力抵抗を100%排除しても観測された低減の20%しか説明できないため、抵抗低減の主因は摩擦抵抗の低減であることが数学的に証明された。
社会的意義と今後の展開
産業応用への展望
DMRコーティングは塗布するだけで機能する受動制御技術。可動部・電力不要で航空機・自動車・船舶への応用が期待される。1%の抵抗低減でも大型航空機では年間数百万円規模の燃料削減に相当。
JALとJAXAとのリブレットコーティング実用化の実績を持つO-Well株式会社の協力のもとDMRコーティングを製作・試験しており、産業応用への技術的な橋渡しが始まっている。
国際展開
インペリアル・カレッジ・ロンドン(Morrison教授グループ)との国際共同研究に向けた協議が進行中。2024年にロンドンで開催されたワークショップに招待講演として参加。
今後の方針
より詳細な数値解析によるDMR制御機構の解明と最適設計指針の確立を目指す。脱炭素・省エネへの社会的要請に応える受動的流れ制御技術の社会実装に向けて推進。
論文・特許情報
関連特許
登録特許「評価装置、粗面、評価方法およびプログラム」日本国特許第7609489号
その他の特許出願上記の対応外国出願を含め、継続中
研究助成
JST CREST(JPMJCR24Q6)/ JST創発的研究支援事業(JPMJFR222R)/ JSPS科研費(19K14880、23K26030)