File.02インフラをより長く使うには?

今、橋やトンネル、道路などのインフラの老朽化が大きな問題となっている。1960年代前後の高度経済成長期に作られたこれらの建造物が、一気に寿命を迎え始めているからだ。
発電所やプラント(工業製品や化学製品を生産する設備)といった大規模な産業設備も、同じような状況を迎えている。
また老朽化に加えて問題になっているのが、それらの建設に立ち会った人が引退しつつあるということだ。彼らは壊れやすい場所や、適切な修理方法を熟知している。 そのベテランがいなくなれば、安全な設備運転が難しくなってしまう。

●より正確で詳細な検査方法を
 高木先生はこれらの問題に対処しようと、建造物に使われている材料の傷み具合を、より早く、正確に調べる技術を研究している。例えば金属製の配管は、 中を流れる液体によって少しずつすり減っていったり、き裂が入ったりする。これらは実際に使用している設備なので、切ったりせずに内部を調べる必要がある。
 そこで先生が取り組むのが「電磁超音波共鳴法」という方法だ。これは、まず電磁石で発生させた磁場によって、金属内に超音波を発生させる。超音波は金属の中を進み、 内部のき裂などに当たると跳ね返ってくる。それによって傷の有無やその位置が分かるという仕組みだ。ほかに内部を見る方法には「超音波法」などがある。 だが超音波法は、慣れている人でないと検査結果が変わってしまうという欠点がある。電磁超音波共鳴法であれば、ベテランもそうでない人も同じデータを得られ、 より正確で詳細な診断が可能になるというわけだ。
 現在この技術を使い、原子力発電設備の検査装置の実用化を進めている最中だという。配管が少しずつ薄くなっていく様子を、1000分の1ミリメートルの単位で測定できるそうだ。
 他にも高木先生の研究室では、渦電流法によるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の検査や、インフラの監視保全技術、省エネルギー炭素材料などの研究も進めているということだ。 高木先生は、これから勉強する学生には、モノを作るだけでなく、その後の「保全」までを考えてほしいと願っているそうだ。

日々が発見の連続

 高木先生にとって、研究の楽しさは「毎日新しい発見があること」。それまで悩み続けていたことが、実験やシミュレーションによって、ある日突然分かるようになる。 場合によっては想像していた以上の発見があり、一気に視界が開けることもあるのが研究の醍醐味だそうだ。

 社会とかかわりの深い研究をしている高木先生は、実は大の「ゴルゴ13」ファン。ゴルゴ13は今ニュースになっているような最新の話題を下敷きにした社会派漫画です。 時にはニュースを先取りするようなストーリーもあり、社会の動きを考えるヒントにもなるとか。枕元に置いてよく読み返すそうです。

高木 敏行
Toshiyuki Takagi
東北大学 流体科学研究所 教授
 1973年に東京大学に入学。1982年に原子力工学の研究で博士号を取得したのち、日立製作所に入社。同社エネルギー研究所でエネルギー技術に関する研究を行ったのち、 1987年に東京大学工学部附属原子力工学研究施設の助教授、1998年に東北大学流体科学研究所の教授。
  • ●エネルギープラント
  • ●原子力発電所
  • ●保全
  • ●非破壊検査
  • ●センシング技術
  • ●機能性材料