File.03プラズマ医療の実現へ

プラズマと聞いて何を思い浮かべるだろうか。オーロラや雷といった光る自然現象は、プラズマによって引き起こされている。また核融合や蛍光灯、空気清浄機なども、プラズマの効果を利用している。 今、その中でも注目を集めているのが、医療や衛生面への利用だ。  プラズマとは、マイナスの電荷を持った電子と、プラスの電荷を持った原子が一緒になって存在している状態だ。固体、液体、気体とは異なる性質をもつため、これらと区別して「第4の状態」とも言われる。 低温のプラズマには、皮膚に当てると表面だけをうまく焼く効果がある。そのため20年ほど前から治療に使われてきた。さらに最近注目されているのが、低温プラズマによって作られた物質を利用する方法だ。

●感染症を予防したい
 空気中で低温プラズマを発生させると、プラズマが空気中の分子と反応して、細胞にダメージを与える物質を作り出す。まずこれを殺菌に使おうという研究が始まった。 佐藤先生は、2003年ごろ感染症のSARSがはやったことをきっかけに研究を開始したという。低温プラズマを利用するためには、プラズマによって発生する物質の流れを理解することが欠かせない。 流れを制御できれば、室内などの空気全体を殺菌することも可能になるだろうと佐藤先生は言う。まずは小型のコンタクトレンズ滅菌装置の実用化を進めているそうだ。  一方、プラズマを減らして、作り出す物質の量を減らしていくと、通常ダメージを与えるはずが細胞を活性化させる効果があることが分かってきた。これを人に使うことができれば、 例えば今まで治せなかった皮膚病を治療できるようになるかもしれない。「低温プラズマには装置が簡単であるなどいろんなメリットがあります。 昔は使われていなかったレーザーが今は当たり前に医療現場にあるように、プラズマ医療も数十年後は当たり前になっているかもしれない」と佐藤先生はプラズマ医療への期待を語る

世界ではじめてその現象を見る

 先生は、社会に役立つ研究にやりがいを感じるという一方で、自然現象を探求する楽しさも語る。1億分の1秒という非常に短い間隔で、プラズマの発生する様子を写真に撮ることにも成功した。 「自然現象を追いかけていると分からないことがいくらでも出てきます。今まで誰も見たことのない世界を最初に見て、解けなかった謎を解いていくのが研究の醍醐味といえるでしょう」ということだ。

 先生が今はまっているのが、持った本人も撮影できる、いわゆる“自撮り”ビデオだそうです。このビデオを使えば、撮影者を含めたメンバーの写真を簡単に取ることができるとか。 右の写真は仙台市にある泉ヶ岳に学生たちと登った時の写真です。臨場感もたっぷりで、レジャーには欠かせないそうです。

佐藤 岳彦
Takehiko Sato
東北大学 流体科学研究所 教授
 1985年に東北大学に入学。熱プラズマの磁場制御の研究に取り組み、1995年に博士号を取得した。松下電工にて熱電素子の研究に携わった後、1998年より東北大学流体科学研究所助手、 2011年から教授。現在は、プラズマ流と生体の相互作用に関する研究に取り組んでいる
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