File.12流体力学で病の姿をひもとく

人のかかる重い病気のうち大きな割合を占めているのが循環器系疾患だ。だが一方で、血管内でどんな現象が起こっているかなど分かっていないことは多い。 そんな中盛んになっているのが、流体力学を使って血液の流れを解き明かそうという取り組みだ。 「工学分野で使われる手法を使うことで、従来とは違った視点から病気を見ることができます」と早瀬先生は語る。
 ただし人体に特有の難しさもある。血液が流れる血管の形はとても複雑なうえ、常に変形している。また生きている人の血管内部の壁の状態を調べることは不可能だ。 さらに血液は、流れる速さによって粘性が変わるといった複雑な性質を示す。そのためいくら高性能なコンピュータを使っても、 血管の状態をシミュレーションするのはとても難しい。
 そこで先生が使うのが、医療計測診断装置の測定データとコンピュータ計算を融合させた「計測融合シミュレーション」という手法だ。 超音波診断装置やMRIなどによって得られたデータをシミュレーションに取り込み、より現実に近い血管内の状態を描き出す。 コンピュータはデスクトップのレベルでも可能になるという。これにより測定データだけ、あるいはシミュレーションだけでは分からない、 血管内部で起こっている現象をより正確に知ることが可能になる。これにより病気の原因の解明、さらに予防にもつながると期待できるのだ。

●より手軽に血圧を測る
 先生は24時間常に正確に測定できる血圧計の実現にも取り組んでいる。通常、血圧は腕を筒に入れたりシートを巻いたりして圧迫して測定する。 この方法だと圧迫感があるだけでなく邪魔になるので、常に血圧をモニターし続けることはできない。 そこで検討しているのが、腕時計タイプの脈拍計の技術に計測融合シミュレーションを適用して血圧を測る技術だ。計算はスマホで行い、 患者がより簡単に正確な血圧データを得られる技術を目指している。

目上の人に意見しよう

 学生に伝えたいメッセージが、佐藤栄作の「上の人が言うことを鵜呑みにしてはいけない。 下の人の言うことをむげに否定してはいけない」という言葉だ。「先生は研究者の一人として思い付いたことを言いますが、それが正しいとは限りません。 自分自身で考えて遠慮なく議論してください」とのこと。同様に会社や研究機関で指導する立場になった時は、謙虚に意見を聞いてほしいとのことだ。

 時間ができると夫婦で山歩きに行くことが多いそうです。自宅から1時間半くらいで行けることから、蔵王にはよく行くとのこと。 ほかにも岩手県の栗駒山や山形県の月山、福島県の安達太良山などの初心者コースを登っています。 近場を中心にのんびり歩き回るのが楽しみだそうです。

早瀬 敏幸
Toshiyuki Hayase
東北大学 流体科学研究所 教授
1974年に名古屋大学工学部に入学、1978年に卒業。1980年博士前期課程修了ののち名古屋大学工学部助手。 1988~1990年、米カリフォルニア大学バークレー校の研究員。1990年に東北大学流体科学研究所の助教授、 2000年に教授。2008~2014年の6年間、流体科学研究所の所長を務める。
  • ●計測融合シミュレーション
  • ●血流
  • ●超音波計測
  • ●数値シミュレーション
  • ●医療診断装置
  • ●循環器系