File.17ロケットエンジンの振動問題に挑む

 伊賀先生はキャビテーションという現象の研究に取り組んでいる。キャビテーションとは液体の圧力が下がった時に、一部が気化して気泡になる現象だ。右の写真で先生が手にしているのは、液体ロケットエンジンに使われるインデューサ(ポンプの一種)になる。ロケットエンジンでは、ターボポンプによって推進剤である液体酸素・液体水素を高圧・高速化して燃焼室に送り込む。インデューサはその入口部に配置され、比較的圧力の低い条件下で高速回転するため、キャビテーションが発生するのは避けられない。
 キャビテーションの振動が発生すると、推進剤を安定して燃焼室に送ることができない。また1999年にHIIロケット8号機の打ち上げが失敗した原因も、キャビテーションの振動によるものだ。伊賀先生は大学院生だった当時、独自の解析コードを使って、この時に発生したと考えられるロケットターボポンプに特有の振動現象である旋回キャビテーションのシミュレーションに取り組んだ。
 キャビテーションは一筋縄ではいかない現象だという。気液界面での蒸発・凝縮や気泡の膨張・収縮が、はく離や渦流れに伴って、流れ場中で同時に起こる。そのため相変化は常に非平衡であり、圧力が飽和蒸気圧まで低下したときに必ずキャビテーションが発生するとも限らない。先生はシミュレーションモデルを作る一方で、JAXAと協力して実験を行いながら、メカニズムの解明に取り組んでいる。複雑に条件が絡み合って予測が難しいが、それだけにやりがいのあるテーマだそうだ。

毎日午後6時になると保育園と学童保育のお子さん3人を迎えに行き、オンとオフのはっきりした生活を送っているそうです。週末はお子さんと野山を駆け回っているとのこと。キャンプ、登山、プール、スキーと日焼けも気にせず1年中とにかく外で遊んで、家族との時間を思い切り楽しんでいるそうです。

伊賀 由佳
Yuka Iga
東北大学 流体科学研究所 教授
1998年に東北大学機械知能工学科卒業、2003年に東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻において博士号を取得。
2003年に東北大学流体科学研究所教務補佐員、ならびに航空宇宙技術研究所(現JAXA)角田宇宙推進技術研究所非常勤研究員。2004年に流体科学研究所助手、2012年から准教授。
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