File.18リアルな触感の臓器をつくれたら?

手術をする外科医たちは一般的に、手術の回数を重ねることでその技術を学んでいく。
だが手術の時以外でも本番そっくりの状態で練習することができれば、
より早く技術が上達するだろう。それを可能にする技術を開発したのが太田先生だ。
先生が右の写真で手に持っているのが、PVA(ポリビニルアルコール)ハイドロゲルと呼ばれる透明の合成樹脂で製造した疑似血管だ。
CTで撮影した患者の血管のデータをもとに、3Dプリンタと同じ要領で立体的な血管をつくり上げる。
成分や製法を工夫することで、触ったりメスで切ったりしたときの感触をリアルに再現することに成功した。
しかも固さを調節することができるため、高齢者の血管も若い人の血管も作成可能だ。
血管に関する治療を行う外科医からの評価も高いという。また手術の練習だけでなく、患者への病状や手術内容の説明、
医療機器の開発や性能評価にも使われているという。
さらに血液の流れを見ることができれば、病気のメカニズムや予防の研究にも役立つ。
そこで太田先生は、疑似血管に流せる疑似血液も開発中だ。光の屈折によって流れが見えにくい、
液体中に流す微粒子がうまく流れないといった課題を独自の工夫で解決した。
先生は「『機械分野の知識が医療に役立つとは思ってもみなかった』という声を学生から聞くことがあります」という。
だが医療技術の進歩はまぎれもなく工学の発展に支えられている。先生がたずさわる医工学の分野は、その醍醐味を感じられる場だといえそうだ。

先生がスイスに留学していた時は、バスに乗って1時間でスキー場に行くことができたそうです。 山一つが丸ごとスキー場で障害物がないので、「パラグライダーを背負って滑り、そのまま飛んでいく人もいた」のだとか。 そんな解放感やスピード感が忘れられず、スキーにはまってしまったそうです。