File.27一層の分子が表面の性質を変える

固体の表面に比較的厚みの大きい膜を作る場合、様々な方法が考えられる。一方、菊川先生が研究するのは、たった1分子分という厚さの有機分子の膜だ。作り方は簡単で、有機分子を溶かした溶媒に膜を作りたい材料を浸しておけば、分子が自ら固体表面に集まって膜となる。このようにしてできる膜は「自己組織化単分子膜(SAM)」とよばれる。SAMは化学結合によって固体表面にしっかりと吸着する。さらに有機分子の端の一部を取り換えることで、表面の物性を自由に設計することが可能だ。
 先生はSAMによって、固体と液体間の熱の流れをよくすることができるのではないかと考えた。そこで分子の動きを詳細に解明できる「分子動力学法」を用いたコンピュータシミュレーションを世界で初めて行い、SAMを介することによって界面(固体と液体や気体と液体などにおける境界面)での熱の流れを向上できることを示した。SAMは固体としっかりくっ付き、固体とSAM間の熱の流れをよくする。SAMのもう一端には液体になじみやすい分子部品を付ければ、液体とSAM間の熱も効率よく伝達できる。この技術は半導体素子の放熱にも応用できると考えられる。さまざまな電子機器の小型化が進む中、分子レベルで熱をコントロールできる技術への注目はますます高まっているのだ。
 SAMに限らず表面の性質を制御する方法にはさまざまなものがあり、例えば水と油の両方を強くはじくといった機能も研究されている。先生はこういった新規のテーマにも挑戦していきたいということだ。

先生はシミュレーション結果の3次元動画化にも挑戦しています(右の写真)。SAMなどを立体視できる動画も公開していて、分かりやすさが2次元とは段違いです。先生はバーチャルリアリティ(VR)技術にも注目しているとのこと。シミュレーションの条件設定などにVRを使うアイデアも持っているそうです。

菊川 豪太
Gota Kikugawa
東北大学 流体科学研究所 准教授
2006年に東京大学大学院工学系研究科において博士号を取得。同年、理化学研究所の協力研究員。2007年に東北大学流体科学研究所の助手、同年に助教、2011年に講師、のち2016年に准教授。2012~2013年に米レンセラー工科大学にて在外研究。
  • ●分子シミュレーション
  • ●分子熱流体工学
  • ●SAM(自己組織化単分子膜)
  • ●機能性有機分子膜
  • ●高分子材料
  • ●制限空間内流れ