File.42マイクロマシンをどうやって動かす?

 マイクロマシンやナノマシンと呼ばれる、目に見えないほど小さな装置の研究開発が進められている。マイクロメートルはミリメートルの1000分の1、ナノメートルはさらにその1000分の1だ。マイクロ・ナノスケールの流れが専門の米村先生は、「気体の温度差」を利用してこの極小マシンを動かせないか検討している。高温気体の分子は低温気体の分子よりも高い運動エネルギーを持つ。そこで気体に温度差を作って高エネルギーの分子をぶつけることによりマシンを動かすという。私たちが生活するサイズの空間では、高エネルギーの分子があってもすぐに周りの気体分子と衝突してエネルギーを失ってしまう。だが小さなスケールでは、他の分子と衝突する前に高エネルギーの分子を直接目標物に当ててその運動量を取り出すことができる。これは極小スケールだからこそ可能な方法だ。
 また先生の研究グループでは最近、多孔質体の内部の流れに関する公式を導き出し、論文として発表した。その式は、多孔質体の外部に圧力差を加えた時に多孔質体の内部を透過する流れの流量を与えるものだ。多孔質体は軽石のように微細な空孔をたくさん持つ材料で、燃料電池の電極をはじめとする身近な製品にも利用されている。従来から公式はあったが、それは「流体を連続体として扱える」ぐらいの比較的大きなスケールの空孔をもつ多孔質体においてのみ成り立つものだった。常温常圧の気体流れの場合、空孔が1マイクロメートルより小さいスケールになると、気体を構成する分子の運動を考慮する必要が出てくるため、正確な答えを出すことができなかったという。提案された公式を使えば、ナノメートルから通常の大きさまで、あらゆる大きさの空孔をもつ多孔質体を透過する流量を予測できる。時には教科書の式を書き換えるような成果を上げられるのも研究者の醍醐味といえそうだ。

先生は心身統一合氣道をはじめて8年半になるそうです。攻撃が目的ではなく、相手の心を尊重し導く「争わない武道」としての考え方が自分に合っていると感じて習い始めたとのこと。身体だけでなく心も鍛えることができるそうです。写真は左側が先生で、技がきれいに決まったところです。今は昇段審査に向けて稽古に励んでいるそうです。

米村 茂
Shigeru Yonemura
東北大学 流体科学研究所 准教授
1991年に大阪大学工学部産業機械工学科を卒業、1996年に大阪大学大学院工学研究科産業機械工学専攻にて博士号を取得。1996年に助手として東北大学流体科学研究所に着任し、その後、講師、助教授を経て、現在、准教授。2016年より1年間、核融合科学研究所の客員准教授。
  • ●マイクロ・ナノ気体流れとその輸送現象
  • ●クヌッセン力
  • ●プラズマ
  • ●希薄気体力学
  • ●ボルツマン方程式
  • ●分子シミュレーション