研究成果

周囲環境依存性を有する透過選択性機能膜の製作とタンパク質物質移動能動制御技術の確立:小宮敦樹【フランス国立応用科学院リヨン校 INSA-Lyon(フランス)】

 産業的にも広く利用が進んでいるポリマー素材は,架橋(クロスリンク)を付与することにより力学的,化学的な特性を設計・制御できることが知られている.また,高温等の極限状態で利用される架橋構造を有するポリマー樹脂(例えば宇宙往還機表面に使われるアブレーション材料)は,それら分子の内部構造の変化・崩壊に伴う機械的・熱的特性の変化を予測することが極めて重要なミッションとなっている.本研究では,これまでミクロな視点から詳細な解析がなされていないポリマー材料内のクロスリンクによる熱輸送特性への影響について,理論および数値的研究を行った.ここでは代表的なポリマー材料であるアモルファス構造を有するポリエチレン,ポリスチレン(図1)を対象とし,クロスリンク形成に伴う熱伝導性への影響を,分子動力学シミュレーションを用いて分析した.その結果,クロスリンクの形成に伴い,ポリエチレンの場合では熱伝導率が概ね線形的に増加するのに対し,ポリスチレンの場合ではほとんど変化しないことが明らかとなった(図2).アモルファスポリマーの場合,クロスリンクの形成によって新しい熱輸送パスが開かれるため,熱伝導率が上昇することが期待される.実際に,ポリエチレンの系において,熱エネルギー輸送を担うミクロな要素を詳細に分析したところ,熱伝導率の上昇が,共有結合相互作用(ポリマー鎖内部及びクロスリンク)を介するエネルギー伝搬に支配されていることが明らかとなった(図3).一方で,ポリスチレンは,側鎖に大きなフェニル基を有しており,ポリマー内部のミクロな不均質性(相互作用),分子スケール構造の秩序低下によりクロスリンクの影響が現れにくくなっていると考えられる.これらの知見は分子レベルから物質内部の熱輸送特性を設計する際の有効な指針となりうる.

図1 アモルファスポリスチレンのスナップショット(1分子のみハイライト)
図1 アモルファスポリスチレンのスナップショット(1分子のみハイライト)
図2 架橋密度に対する各ポリマー材料の熱伝導率変化
図2 架橋密度に対する各ポリマー材料の熱伝導率変化
図3 長鎖ポリエチレンにおける架橋密度に対するミクロな熱輸送モードの推移
図3 長鎖ポリエチレンにおける架橋密度に対するミクロな熱輸送モードの推移

 

学術論文

  1. Gota Kikugawa, Tapan G. Desai, Pawel Keblinski, and Taku Ohara, Effect of Crosslink Formation on Heat Conduction in Amorphous Polymers, submitted.

学会発表

  1. Gota Kikugawa, Pawel Keblinski, and Taku Ohara, Thermal Energy Transfer In Amorphous Polyethylene With Cross-Link Formation, 2012 Rensselaer Nanotechnology Center Research Symposium, (2012).
  2. Gota Kikugawa, Pawel Keblinski, and Taku Ohara, Heat Effect of Cross-linking on Heat Conduction of Amorphous Polymers, 2013 MRS Spring Meeting and Exhibit, (2013).
  3. 菊川豪太, Pawel Keblinski, 小原拓, アモルファスポリマー内の架橋による熱伝導特性への影響, 第50回日本伝熱シンポジウム, (2013), 発表予定.
  4. 菊川豪太, Pawel Keblinski, 小原拓, 架橋を有するアモルファスポリマー材料における熱輸送機構の解明, 日本機械学会 2013年度年次大会, (2013), 発表予定.
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