•  血液のがんの1つとされる悪性リンパ種は、メスなどによる切除手術を行うとがん細胞が全身を巡る(転移する)恐れがあるため、身体的な負担が高い放射線治療や化学療法を用いています。腫瘍組織に直接触れることなく、かつ患者への負担が低い治療を実現するため、当研究室は外科や美容外科などで広く普及しているレーザー治療に着目しました。

    現在のレーザー治療は「目的の箇所だけを目的の温度へと正確に制御する」ことが難しく、この解決のためには“レーザー光が生体組織の中でどのように伝わり、発熱に寄与するのか”という物理現象を解明する必要があります(図1)。当研究室では、これまで培ってきた光エネルギー輸送に関する解析技術をレーザー治療へと応用し、健常な組織を冷却することで保護しつつ腫瘍のみを加熱・破壊できる新たな治療法を提案します。

    現在、食肉を用いた実験により、表面を傷つけることなく内部のみを加熱することに成功しています(図3)。本治療法が実現すれば、治療時間は5分に満たず、また、皮ふ表面は健常であるために手術痕も目立たないことから、患者のQOL (Quality of Life)の向上が期待されます。今後は動物を用いた実験を実施し、本治療法のより高度な評価を行う予定です。
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    図1.生体内における
    レーザー光の伝播イメージ


    図3.食肉を用いたレーザー加熱実験

       
  •  生体組織を局所的に冷却し、凍結させることにより病変部を破壊する外科手術法が凍結手術である。凍結手術において生体組織を冷却するデバイスをクライオプローブと呼び、高い冷却能力と低温が要求される。凍結手術は肝臓ガンや前立腺ガンなどの比較的大きな病変の治療に実用化されている。本研究室では、これまで凍結手術を適用するのが困難であった、皮膚の薄い病変部や小さな初期胃ガンの高精度切除を目指し、高精度に温度制御が可能なクライオプローブの開発を行ってきた。実験的にクライオプローブの性能を評価するとともに、数値シミュレーションや動物実験を行い、温度制御による凍結領域制御を目指している。本研究は東北大学医学系研究科皮膚科学講座の協力のもと行われている.
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  •  灸に代表される東洋医学における温熱療法は長い間中国を中心にアジア各地で発展してきた。その一方で、治療は施術者の経験と勘に頼っており、人体が温まる伝熱プロセスや温熱が与える治療効果については定量的な理解がなされてこなかった。本研究室では、温熱療法の定量的理解のために、腹部温熱制御機器やふく射加熱装置を開発した。これらの装置の伝熱特性を実験的に明らかにするとともに、施術時の生体伝熱プロセスのシミュレーション、臨床試験による治療効果の確認などを行っている。本研究は東北大学医学系研究科先進漢方治療医学講座と共同で行っている.
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  •  生体組織を外部から加熱・冷却した際に、内部でどのような伝熱現象が生じるのかを推定することは定量的かつ安全な熱治療を実現する上で不可欠である。このような生体伝熱現象を記述するモデルとしてPennesの生体伝熱方程式があり、この方程式で記述される生体伝熱現象の特性を解析している。また、モデルを用いて治療をシミュレーションする際には正確な熱物性値が必要になる。しかし、生体組織は個体差、血流・代謝の変動などにより純物質のような一定の熱物性値を持たない。本研究室では、非侵襲かつその場測定が可能な熱物性測定技術の開発を行っている。本研究は東北大学医学系研究科先進漢方治療医学講座と共同で行っている.
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  •  熱電運動素子とは形状記憶合金とペルチェ素子を組み合わせたアクチュエータである。熱電半導体は電気の流れを切り替えることで素子内部に発生する熱の移動する向きを替えることができるので、連続的に形状記憶合金を加熱冷却することが可能である。熱電運動素子を利用した能動カテーテルの開発を行っている。自由度の大きい動作で患者の手術時の痛みを和らげる。応用の際に、医師は能動カテーテルを遠隔操作し手術を行う。熱電運動素子を用いた人工心筋の開発も行っている。省電力で小型かつ軽量な補助人工心筋の完成が期待できる。本研究は東北大学加齢医学研究所心臓病電子医学分野と共同で行った.
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