•   “タンパク質”は生体内で様々な機能を担っており,新薬の開発の重要なターゲットとなっています.また近年,生体機能を備えた微小なロボットの開発などが注目されていますが,それらを形作るのも”タンパク質”であります.
     これらのタンパク質医薬や,生体機能を備えた微小ロボットを作成する上で,タンパク質の物質拡散現象の解明はとても重要であります.しかしタンパク質は分子量が大きいために拡散過程が非常に遅く,測定するのが困難な物質の一つであります.
    そこで本研究室では濃度分布を高精度に計測可能な「位相シフト干渉計」を用いて拡散場の可視化観察を行っています. これにより,多孔質膜などの空間的障害や,静電気力の影響が物質流束,すなわち物質拡散の速さに与える影響などについて検証しています.
  •   

    多孔質膜


    位相シフト干渉計

       
  •  空気や水といった“流体”は非常に身近な存在です.私たちは空気の中で生活をし,水と深く関わって生きており,工学の分野では水力発電,風力発電といった発電システム,ロケット,飛行機,船舶,車などの輸送機械と様々なところで流体は重要な役割を果たしています.
    工学の発展には,これらの流体の動きの把握が必要となります.しかし,流体の動きは目視では観察することができません.このような目視できない流れを観察可能にする技術が“流れの可視化技術”です.流れの可視化技術はコンピュータ技術が発達した現代においても重要な実験手法であり,多くの可視化技術が提案されています.
    本研究室では流れの可視化技術として光学的可視化手法の一つである“光干渉計”に注目しました.これまでに“大視野”,“高分解能”,“高速”の三つをキーワードに,従来の光干渉計を発展させることで新たな光学的可視化手法の開発に取り組んできました.新しい光学系を実現すべく,新たな光学系と新しい光学プリズムであるアルバプリズムの提案,そして画像処理方法の一つである位相シフト技術の導入を行い,これらを組み合わせることで構築したのが大型位相シフト干渉計です.大型位相シフト干渉計の構築により直径300 mmの視野と従来の干渉計の100倍以上の分解能の実現に成功しています.
  •   

    大型位相シフト干渉計


    アルバプリズム

       
  •  自動車のラジエーターやCPUのファンに代表されるような熱流体機器の性能向上、また自動車や航空機における空力抵抗の低減による更なる燃費・走行安定性の向上のためには、その物体周りに形成される流れ場(速度境界層)および、流れ場中の温度場(温度境界層)の高精度測定が必要です。

    現在、これらを測定する一般的な手法としてプローブによる測定が挙げられます。しかしながら、流れ場中に形成される境界層は数ミリ程度と非常に薄いため、プローブを測定点に設置する測定手法では境界層内部の分布を得ることが難しく、またそれ自身が流れ場に与える影響は無視できません。

    そこで本研究では、前述の大型位相シフト干渉計を風洞と組み合わせることにより物体周りの流れ場の測定を行っています。図のように、円柱や平板を始め、車や飛行機模型を測定対象とし、流れ場の測定を行っています。
  •   

    図1.円柱周りの流れとカルマン渦


    図2.飛行機模型周りの流れ


    図3.車模型周りの流れ

       
  •  二酸化炭素等の地球温暖化ガスの削減は世界共通の課題となっており,その二酸化炭素削減の手法としてCCS技術の開発に大きな期待がかかっています.二酸化炭素の分離回収から貯留までの一連の行程の中で最も重要な二酸化炭素吸収技術の一つとして,化学吸収法が挙げられます.現在,化学吸収法においては主に吸収剤の研究が行われていますが,二酸化炭素と吸収材の気−液界面における根本的な物質移動現象を対象とした研究はほとんど行われていません.

    そこで,本研究では気−液界面での二酸化炭素吸収現象の多次元的な計測及び解明を目的としています.吸収過程の可視化には,濃度場の可視化技術として位相シフト干渉計,流れ場の可視化技術として粒子画像流速測定法(PIV)を用い,液相内の二酸化炭素濃度及び流れ場の同時計測を行います.これらの計測を通して二酸化炭素吸収過程を定量的に評価し,そこから吸収促進技術の提案を行っています.
  •   

    二酸化炭素吸収過程の干渉縞

       
  •  流体の速度が高速化するとき,または流れ場のスケールが大規模化するとき,流れ場は不安定になりランダムな流体運動に移行します.このランダムな流体運動を「乱流」と呼びます.「乱流」には摩擦係数が急激に増加するといったデメリットを持っている一方で,「乱流」で形成される渦によって熱が効率よく伝わりやすいというメリットも有しています.つまり熱が伝わる現象である「伝熱」と流体のランダム運動である「乱流」の特性を理解することで,あらたな機器の冷却方法の開発に大きく貢献することができます.
     本研究室ではこれまで「乱流」が「自然対流」の熱流動特性に及ぼす影響について調査・研究を行ってきました.「自然対流」とは流体の密度差によって起因する流れ場で,線香やタバコの煙がその例として挙げられます.「自然対流」は外部動力を必要とせず,無動力で機器の冷却を行うことができるという利点を有しています.特に大規模スケールで生じる「乱流自然対流」はアトリウム型建築物の換気システムや原子力発電所の無電源冷却システムとして注目されています.
     本研究室では「乱流自然対流」の熱流動特性に及ぼす影響を評価するためにスーパーコンピューターを用いて解析を行ってきました.解析では無次元数を用いて渦による伝熱量の変化を評価しています.また渦が伝熱促進にどの程度役立っているのか評価するために,可視化ソフトを用いて3次元的に解析を行っています.解析の結果,「乱流」が生じる「自然対流」では「強制対流」と異なり,流れ場が安定化しやすいという流動特性を有することが明らかとなっています.
  •   

    加熱璧面周りで生じる乱流自然対流の渦

       
  •  温度・濃度二重拡散場のその場観察を,ロケットや航空機,落下塔によって得られる微小重力環境を用いて行っています.自然対流の影響をほとんど受けない状態で二重拡散現象と結晶成長観測を行っています.
  •