ナノ流動研究部門

分子複合系流動研究分野

  • (兼)教授小原 拓

  • 准教授菊川 豪太

ナノスケールからマクロスケールに渡る多くの工業・産業プロセスにおいては、分子レベルの物理が複合的に関与する熱流動現象が数多く見られます。特に、デバイス表面での放熱性能の向上による次世代半導体デバイスの限界性能向上、熱流動特性や機械特性の最適化による新規高分子素材の探索・設計には、界面での熱流動特性や不均質媒体における分子スケール構造と輸送特性の相関など、複合的な視点での現象理解が不可欠です。そこで、分子動力学法をはじめとした大規模数値シミュレーションにより、熱流体工学におけるミクロスケールの熱・物質輸送現象およびマクロな熱流体物性を支配するミクロスケールメカニズムの解明を目指しています。また、複数のスケールに渡る数値解析技法の統合によってマルチスケール性を有する熱流動現象の解明を行います。これらの知見を基盤とすることで半導体プロセス、高分子素材開発等の関連産業へ貢献することを視野に研究を進めています。

有機分子膜による表面修飾の研究

自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer、SAM)をはじめとした分子スケールの表面修飾技術は、固体表面の物理化学的特性を制御する技術として、種々のプロセスやデバイスへの応用が進んでいます。特に、有機分子の自己組織化や薄膜状態での自発的構造形成を利用してボトムアップにより表面修飾を行う技術は、柔軟かつ適応性の広い方法として期待されています。これら有機分子膜の構造形成や界面親和性、界面を介した熱・物質輸送特性は、工学応用上極めて重要であり、その輸送機構を明らかにすることを目的に研究を行っています。
  • Alkanethiol SAM on Au(111) with organic solvent
  • Nanoscopic picture of droplet wetting on SAM

有機高分子材料の熱機械特性

産業的にも広く利用が進んでいる高分子材料の開発には、内部の分子スケール構造や相分離構造の制御によって、力学的・化学的特性のみならず熱流動特性を設計することが必要とされています。例えば、航空機の構造材料として利用される架橋構造を有するポリマー樹脂は、難燃性の向上が開発ターゲットとなっていますが、材料内部の分子構造の変化とその熱的特性を予測することが極めて重要な課題となっています。分子スケールからマクロスケールに至るスケール複合的な解析手法やデータ科学の技術を利用して、有用な熱流動特性や機械特性を有する高分子材料の探索・設計を目指しています。
  • Molecular structure of epoxy resin
  • Self-organizing map for organic liquids

不均質媒体/制限空間内の流体における輸送現象

流体やソフトマター界面、ナノスケール構造によって形成される制限空間内の閉じ込め液体においては、界面近傍における液体中の不均質(ヘテロ)な構造発現に伴い、特異な熱・物質輸送特性が現れます。これらは、多孔質体やナノ細孔、生体高分子を介した物質移動などナノ・バイオ工学レベルで広く重要な要素となっています。本研究を通じて、界面近傍における閉じ込め液体の分子輸送特性が、均質なバルク液体中と大きく異なることや流体力学的効果によって分子拡散現象が強く影響を受けることが明らかになっています。分子スケールにおけるヘテロな構造や輸送現象の本質的理解と、それらに基づくマクロな熱流体解析への橋渡しとなる物理モデルの構築を目指しています。
  • Instantaneous structure of water surface
  • Anomalous diffusivity of liquids in the periodic rectangular parallelepiped system