ソニックブームを相殺する超音速複葉翼理論

21世紀COE「流動ダイナミクス国際研究教育拠点」の楠瀬一洋COE招聘教授(流体科学研究所、在任期間2004.7〜2005.9)と、大林研・佐宗研・中橋研(工学研究科)の研究グループが、流体科学研究所のスーパーコンピュータを利用して、超音速で飛行しても従来のような強い衝撃波を発生しない複葉翼(二枚翼)理論を研究しています。

この二枚翼コンセプトは、将来のサイレント超音速旅客機実現のための重要な糸口であり、衝撃波による空気抵抗(造波抵抗)が従来型に比べ最大85%カット出来き、その結果、衝撃波による騒音が大幅に減少し、かつ燃費も向上することが期待されています。

このニュースが河北新報に掲載(平17.9.23)されたところ、地元の高校生から質問が来ました。そのQ&Aをもとに、超音速複葉理論を紹介します。

@ 翼のどの部分がどう働いて衝撃波を軽減できるのか。

飛行機が超音速で(音の速さを超えて)飛行すると、衝撃波と呼ばれる空気が圧縮された波が発生します。例えば、船が海上を進んだ場合の船首から左右に広がる波を考えるとイメージしやすいかもしれません。



図1 超音速の気流中に生じる衝撃波

「複葉翼」を用いるとその波をお互いに干渉させて消すことができます。



図2 二枚翼の干渉で相殺される衝撃波

その結果、空中に広がる衝撃波を軽減できます。スーパーコンピュータで実際に計算した結果を見ても、外に広がる衝撃波が軽減していることがわかります。下の計算結果では、圧力変化の様子を色で表しています。水色が大気の圧力、緑〜黄〜赤と圧力が次第に高くなることを示しています。逆に青いところは圧力が下がっています。一枚翼の先端から緑になることで、圧力が上がり衝撃波ができていることが分かります。流れが角を回るとき圧力が下がり最後は元の圧力に戻ります。二枚翼の中には非常に圧力の高いところがありますが、お互いの頂点を過ぎると逆に圧力が下がります。衝撃波は二枚翼の中にだけあって、外の衝撃波が消えていることが分かります。

 

図3 一枚翼まわりの流れの計算結果           図4 二枚翼まわりの流れの計算結果

この翼は、ブーゼマンというドイツの研究者が1930年代に考えたアイデアに基づいていますが、当時は超音速飛行機もありませんでしたし、そもそも飛行機の翼に使えるとは考えられていませんでした。

A 翼の材料はどのようなものを使うのか。

2003年まで「コンコルド」という超音速旅客機が就航していました。このコンコルドも現在の飛行機と同じようなアルミニウム合金を使っていました。ですからこれから実現させようとする「複葉翼」の材料も、現在使われている材料で飛行できると考えています。最近ではCFRP(炭素繊維を用いた複合材)などのより軽くて強い材料も開発されてきていますので、それらの利用も大いに考えられます。



図5 1969年に初飛行し2003年に運航が終了した超音速旅客機コンコルド
(平17.9 ドイツにて撮影、世界の航空宇宙博物館のページにも紹介してあります)

B 問題点は何か。

「複葉翼」を使った超音速旅客機というのは新しいアイデアですので、まだまだわかっていないことがあります。これまでは翼について研究を進めていましたが、胴体部分はどのような形状になるのか?エンジンはどこにつけるのか?そして質問してくれたように、どんな材料を使って構造をつくるのか?問題は沢山ありますが、1つ1つしっかり考え研究していくことで必ず近い将来、「複葉翼」を持つ超音速旅客機を実現させたいと考えています。

Cこの複葉翼が実用化された場合、超音速旅客機によって世界はどう変わるのか(経済的なものなど)。

みんながより速く快適に世界各地へ行くことができるようになる、というのは大きなメリットだと思います。現在の飛行機だと日本からニューヨークまで約12時間かかりますが、新しい超音速旅客機が実現すればおよそ半分の時間で到着できます。もちろん人・物を世界各地へ素早く移動させることができるようになれば、経済に与える影響も大きくなります。(資料1

また飛行機に乗り長時間同じ体勢でいることでエコノミークラス症候群が心配されていますので、健康面からも超音速旅客機は必要になると思います。小さい子供からお年寄りまでみんなが乗れる超音速旅客機にしたいと考えています。(資料2

超音速旅客機は、実現が非常に待ち望まれているといえます。そのため世界中で実現へ向けた研究が行われています(資料3)。私たちも「複葉翼」という新しいアイデアを活かして実現へ向けて頑張っていきたいと思っています。

もっと専門的な内容が知りたい人は以下の報告書をご覧ください。
科研費報告「サイレント超音速飛行実現のための 実験・計算融合研究」平成19年3月
はしがき
第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章

 

関連サイト

JAXA 次世代超音速輸送機の研究

航空宇宙学会  サイレント超音速旅客機研究会

21世紀COEプログラム「流動ダイナミクス国際研究教育拠点」

東北大学流体科学研究所