(1) モデル
図1 に,剛体球多分散系の模式図を示す.
体積一定の立方体に,初期速度を持つ剛体球粒子を配置し,それらが運動することによって
完全弾性衝突を繰り返すという単純なモデルである.
剛体球系の場合は,粒子同士が完全弾性衝突をするためにエネルギーが一定に保たれ,
温度を変化させることができない.
そこで,体積分率を変化させることによって温度変化と同様の効果を実現する.
また,多分散系とは,粒子の半径に分散を持たせた系であるため,結晶軸を作りにくく
ガラス化しやすいという特徴がある.
この剛体球多分散系モデルでは,既に過冷却液体が再現されている[1].
よって本研究では,既に過冷却液体が実現されていること,また,
最も簡単な系の一つであるためメカニズムの本質を理解しやすいことから,
剛体球多分散系モデルを採用する.
(2) 初期配置
液体が過冷却液体と結晶のどちらに至るかは,融点付近を境にわかることである.
そこで,まず融点を探るために,はじめは結晶に至ると予想される単分散系モデルでシミュレーションを行う.
図2に,体積分率と物質の状態を表す相図を示す.
上段は多分散系の液体がガラスにいたる場合,下段は単分散系の結晶に至る場合である.
図3の下段より,
実際の場合は液体を冷却していくと,はじめに結晶が現れる凝固点と,完全に結晶となる融点の間が,
液体と結晶の共存する領域となる.
しかし,剛体球系のシミュレーションでは,共存を実現することができない.
そこで,粒子の初期配置は,最も充填率の高い結晶配置である面心立方格子と,
液体に近い配置であるランダム配置の2種類を考える.
図4に面心立方格子,図5にランダム配置の画像を示す.
剛体球系のシミュレーションでは,共存領域と予想される体積分率で時間発展させた場合,
初期配置に依存する準安定領域になる[2].
そこで,面心立方格子で始めたときは,液体の配置になったもっとも体積分率の高い場合を凝固点,
ランダム配置ではじめたときは,
結晶の配置になったもっとも体積分率の低い場合を融点と判断することにする.