平成12年度までの研究経過
平成12年度発足した、中核的研究拠点形成プログラムでのこれまでの研究経過及び成果についてご紹介します。本年度末には衝撃波学際研究棟が完成し、平成13年度以降の研究はこの新築研究棟と衝撃波研究センターの実験室を共用して実施する事になります。
(I)複雑媒体中の衝撃波現象の解明
(1)複雑媒体中の衝撃波の挙動の解明に関連して、つぎに挙げる研究成果を得ました。
- 直径が一様な寒天球を水中に分布させて、複雑媒体中の水中衝撃波伝播と減衰の機構を明らかにしました。
- 微小爆薬にパルスレーザーを照射して気中および水中で起爆して球状衝撃波を発生する機序を詳細に明らかにし、また実験法も確立しました。さらに、微小爆薬のTNT等量を求め、
微小爆発も爆発の相似則に従うことを初めて明らかにしました。
- 気泡が分布する液体中を伝播する衝撃波現象を定量的に明らかにするために、リポゾームで微小気泡を発生し、分布させる手法を確立しました。
- 空気と過飽和液体蒸気の混合気体に膨張波を作用させて微粒液体を発生させ、これに衝撃波を作用させて微粒液体と衝撃波の相互作用を観測する縦型衝撃管を試作し、その特性を明らかにしました。特に、この装置は無隔膜衝撃波管と呼ばれ、衝撃波発生の再現性、操作性に優れ、今後の衝撃波研究の発展の方向を示すものとして期待しています。
- 金属に高速飛行体が秒速4−5kmで衝突すると、発光現象が現れます。発光のスペクトルを計測して、高速衝突で現れる高温を定量的に計測することに成功しました。特に、スペースデブリのバンパーシールドの設計法の基礎となる複合材料の衝突特性を解明しました。
- 高速衝突で金属面から電磁波が発生することを検知しました。今後電磁波の発生を精密に計測して、衝突孔形成過程の診断法を確立する見通しを得ました。これは本研究計画の大きな発見で、今後その機構を明らかにして固体中の衝撃波研究の飛躍的発展が期待されます。
- パルスホロミウム・ヤグレーザーを光ファイバーで水中に導き、フォーカッシングして衝撃波を発生する過程を詳細に解明しました。この研究結果は、今後の衝撃波医療の発展に重要な手段となります。
- 極低温液体中での衝撃波の発生と伝播に関する実験装置を完成しました。また、次年度計画では、ヘリウムII中の衝撃波現象を観察して、衝撃波現象に現れる量子効果を明らかにする準備を完了しました。
(2)高粘度液体中の衝撃波の挙動と、気泡と衝撃波の干渉の解明に関連して、つぎに挙げる研究成果を得ました。
- 高粘度媒体として100,000 cSt のシリコーン油中の気泡と衝撃波の干渉を計測し、その結果を1,000,000
cSt あるいはそれを超える高粘度液体中の観察に展開する手法を確立しました。水中爆発ではなく、高速飛行体の打ち込みによって液中衝撃波を発生する実験装置を製作しました。
- 火山噴火の機序を衝撃波研究の見地から解明するために、日本の火山研究者との研究協力関係を確立し、火道内の流動を模擬する装置を製作しました。
(II)計測法および数値シミュレーション法の開発
(1)圧力、温度および状態量の計測に関する以下の研究を行いました。
- 粒子速度干渉計を購入して、液体中で瞬間的に変化する粒子速度を計測し、比較的低圧領域での液体の状態方程式を求める手法を確立しました。
- ピエゾ効果を利用する圧力計は温度変化を伴う現象の計測には不適当です。
- 金属隔膜の圧力変化に対応する変位を光ファイバーで伝達し、レーザー光の変調を利用して検知する圧力計を国際研究協力により開発し、更にこれを衝撃波研究に応用する準備を完了しました。
- 液体中の微小領域に波長の異なる4つのレーザー光を交差させて配置し、その点での衝撃波フォーカッシングに伴う温度上昇を非接触的に計測する手法を開発中で、オーストラリア国立大学物理学科、アメリカ航空宇宙局ラングレー研究所との共同研究で実用の見通しを得ています。
(2)ホログラフィー干渉計法の性能向上と画像処理に関して以下の研究活動をおこないました。
- 既存の二重露光ホログラフィー干渉計法を高性能化し、デジタル位相変位干渉計法を開発して、非常に弱い衝撃波背後の密度変化の計測に成功しました。この手法は三次元的な衝撃波計測に適しているので、将来応用の展開が期待できます。
- 複雑な三次元画像を取り込んで数値格子を形成する手法を確立しました。この方法を用いて、まず脳血管の血流解析を行い、動脈瘤の処置に関わる術式の選択の基準を得ることに成功しています。
- カラーシュリーレン法の開発を行いホログラフィー干渉計法との同時可視化法を初めて開発しました。その結果は、衝撃波の可視化計測にとって著しい貢献が期待されています。
(3)強拡大視野での高速撮影法の開発に関して、次の研究を行いました。
- 直径1ミクロン程度の微粒子を金属箔に貼りつけ、その反対側からパルスレーザーを照射してアブレーションを起こし、そのとき金属箔中に現れる衝撃波の反射で微粒子を数100m/sの速度で打ち出す方法を初めて確立しました。この方法は固形薬剤や遺伝子を付着させた金属粒子を安全に体内に注入する技術に展開する事ができます。その基礎研究の一環として、超音速飛行する微粒子の光散乱法を用いた可視化法を開発中です。
- また、パルスレーザー光の水中フォーカッシングで微小衝撃波と気泡を発生して、それらの生体との干渉に関する実験をしています。そのために高速CCDカメラの援用および高速撮影装置が有効に活用されています。
- 高速回転する円筒の周辺速度が超音速になるとき、円筒に接近して平板を接近させるとその上に非常に大きなせん断力が作用する。これを利用して平板上の微粒子を非接触的に取り除くことに成功しました。その基礎研究の一環として微粒子の動きを高速撮影する研究が進行中です。
(4)三次元数値計算法の開発 に関して以下の研究活動が進行中です。
- 非構造格子衝撃波捕獲法が開発され、並列計算に適した数値計算法を開発中です。
- 非常に精密な格子を形成して、楔、円筒、凹面を過ぎる衝撃波の反射に及ぼす粘性効果を数値的に明らかにし、実験的に検証することに成功しています。これは空気力学の教科書を書き直すに値する成果です。
- 気体、液体、固体の連成系に現れる衝撃波伝播の数値計算法を開発しています。
(5)高速飛行体発射装置の開発に関して次の研究開発を行っています。
- ラム加速機の性能向上を行いレーザー光を用いる新しい推進法の開発に成功しています。
- 斜め二段式軽ガス銃を製作してその特性を明らかにしております。また、火薬室の着火方式を改良して軽ガス銃の高性能化にも成功しています。