File.01まだ見ぬ飛行機の形を導き出す

今、次世代旅客機として超音速機が検討されているのを知っているだろうか。その中でも大林先生が提案する超音速旅客機「MISORA」は、上下に重なった2枚の翼を持つ複葉タイプのユニークな形状だ(写真中で先生が手に持つ飛行機)。複葉機にした理由は、超音速で移動する物体から発生するソニックブームと呼ばれる爆音を防ぐため。2枚の翼を重ねることで、それぞれの翼から発生する衝撃波を打ち消し合うことができるのだ。最終形状は、学生がシミュレーションによって求めたそう。次は、実際に衝撃波を減らせるのかを実験で確認する予定だ。

●MRJの形状もシミュレーションで検討
 大林先生の研究は、初の国産旅客機として三菱航空機が開発している「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」にも生かされている。MRJが一番効率よく飛ぶことができる翼の形状は、進化計算と呼ばれる独自の方法によって導き出された。ただしこの時は、巡航状態(動きに変化がなく一定速度で飛んでいる)の条件で計算された。より複雑な飛行もシミュレーションできるようになれば、さらに効率の良い飛行機の形状を検討することが可能になる。
 だが複雑な条件のシミュレーションを行うためには、実験を行って、その結果を参考にしながらプログラムを修正していく必要がある。航空機の実験は「風洞」と呼ばれる人工的に風を起こす装置で行われるが、今までの設備では、実験の精度に限界があったという。そこで新たに導入を進めるのが、「磁力支持天秤」という装置だ。模型を棒や糸ではなく磁力で空中に浮かせることで、周りの流れをより現実に近づけ、また自由に姿勢をコントロールできるようになる。これによって、より複雑な飛行状況を研究したり、危険な飛行試験を実験で置き換えたりできるようになるかもしれない。

興味を大事に育てること

先生は学生の時、まず数値シミュレーションによる気象予報に興味を持ったそう。そのために必要な流体力学を勉強するうち、流体力学が応用されている航空宇宙分野への関心を深めた。当時、最先端の数値シミュレーションを行っていたNASAで研究したいという思いを強め、スペースシャトルの研究に携わることになった。好奇心を大事に育てて努力を続けた結果、今の先生があるようだ。

先生の趣味が、小学生のころから続けるスキーだそう。シーズン中は毎週のように学生と連れだって山形にすべりに行くそうです。海外のスキー場は大きな岩山の上といっただだっ広いところが多いので、ヘルメットが必要なほどスピードが出ることなど楽しそうに話してくださいました。

大林 茂
Shigeru Obayashi
東北大学 流体科学研究所 教授
1978年に筑波大学に入学。宇宙科学研究所(現JAXA)で数値シミュレーションの研究に取り組み1987年に東京大学で博士号を取得したのち、NASAで7年間研究に専念する。1994年に東北大学工学部機械航空工学科の助教授、2003年から流体科学研究所教授。
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