File.06次世代エネルギーを掘り出す技術

伊藤先生の研究テーマは、エネルギーや地層に関するものだ。現在のエネルギー資源の主役である石油は、地面に穴を掘って採掘される。 その際、掘った分の岩石は地上に運び出さなければいけない。そこで上から水を流し、水流に乗せて下から削りかすを運び上げる。 一方、水圧を上げすぎると掘った穴が壊れ、土の中に泥水が逃げてしまう。そこで伊藤先生は、掘っている穴が割れないような方法を考案した。 水の中ではいろんな方向から同じ大きさの水圧が掛かるが、土の中ではプレートの移動や地層の種類の違いにより、方向によって圧力の大きさが変わる。 その性質を利用して、割れにくい方向を調べて掘るための計算式を導き出したという。今では実際に、その方法が石油会社にも使われているそうだ。

●新エネルギーと期待されるメタンハイドレート
 油や天然ガスを掘る際に使われてきた方法に、フラクチャリング法がある。フラクチャリングは破砕という意味で、穴を縦に掘ったあと、 周辺の岩盤を水圧で砕いて、石油やガスの通り道を作る。1度だけ掘ったあと横道を作るため、何度も場所を変えて穴を掘るよりも、効率よく資源を取れるのだ。  一方、最近は新しいエネルギー資源であるメタンハイドレートの採掘技術の開発が進められている。 メタンハイドレートは、燃料となるメタンが水と一緒になってシャーベット状に凍ったものだ。 従来の資源のような硬い岩盤ではなく、柔らかい地層にあるため、伊藤先生はフラクチャリングがどのように起こるかを、 実験とシミュレーションを駆使して解明しているそうだ。  また伊藤先生は、温室効果ガスである二酸化炭素を地下にためる「二酸化炭素貯留」の技術も研究している。 場合によっては一度ためた二酸化炭素が漏れ出てくる可能性もないとは言えない。そういった緊急時に、 二酸化炭素をふたたび地下に固定させるための研究を行っているということだ。

何よりも大切なのはオリジナリティ

 研究の醍醐味は、まず第一に社会の役に立つということだ。さらに研究では、知られていない原理を見出し、 推論を立てて実験やシミュレーションを行い、実用にまで持っていくという過程全てがおもしろいという。 一方、大変なのは、オリジナリティがなければ研究の世界では生き残れないことだ。しかもアイデアを思い付けば、 誰よりも早く検証して発表しなければならない。厳しいが、だからこそやりがいがあるともいえるだろう。

 プライベートではグライダーやキャンプなどのアウトドアが好きだそうです。 飛行機免許も持っていて、いつかモーターグライダーで飛び回ることが夢とのこと。 キャンプで特に好きなのがたき火を眺めることだそうで、そのために行っていると言っても過言ではないとか。 写真は研究室のメンバーでキャンプに行った時のものです。

伊藤 高敏
Takatoshi Ito
東北大学 流体科学研究所 教授
 1979年に東北大学に入学、1986年に博士前期修了後、東北大学機械工学科の助手、 1993年に東北大学で博士号を取得、同年流体科学研究所の助教授、2010年より教授。 専門はジオメカニクス(岩石力学)、2009年からメタンハイドレート開発プロジェクトに参画している。
  • ●ジオメカニクス
  • ●地殻応力
  • ●フラクチャリング
  • ●地熱
  • ●メタンハイドレート
  • ●二酸化炭素地中貯留