File.14分子のレベルで流体の性質を考える

 先生の研究は、流体を分子という極小のスケールでとらえるものだ。これは、機械工学の世界に物理化学を取り入れる研究でもある。 流体力学は、飛行機や船、タービン、また地球スケールの大気の動きなどを考えるために使われてきた。だが最近は、 流体力学がより小さなスケールで使われるようになっている。「目に見えるようなスケールで流体を考える場合、連続体流体力学方程式で何の問題もありませんでした。 ですがサイズが小さくなると従来の理論で流体を考えるのには限界が出てきました。つまり分子レベルでの運動を考える必要が出てきたのです」(小原先生)。
 また分子レベルで流体を考えることで、流体の物性を「設計」することができるという。流体の性質を表す物性値には、粘性係数や熱伝導率といったものがある。 その性質をつくっているのは、突き詰めれば分子の運動だ。 分子の大きさや分子を構成する原子の配列、分子間力などを設計することにより、流体の物性を自由に制御することができるのだ。

●ソフトマターの物性を求める
 先生はソフトマターの研究も行っている。ソフトマターとは、高分子や液晶、界面活性剤、またマヨネーズなど「やわらかい」物質の総称だ。 水や空気の分子よりとても大きな分子だったり、たくさんの分子が集団として一斉に動いたりするのが特徴のひとつだ。
 先生が最近取り組んだテーマの一つが、ソフトマターの一種である脂質二重膜だ。脂質二重膜は、細胞を包んで外界と細胞の内部を隔てる役割をもつ膜で、 大きな分子が緩やかにつながってできている。小さなスケールにおける物性値を調べることはとても難しいが、先生はこの脂質二重膜の熱伝導率を分子運動の計算により初めて導き出した。
 ソフトマターは工学分野であらたな材料として期待されている。液体中に分子を入れておけばひとりでに膜などの構造物をつくる、 自己組織化という性質をもち、構成分子の選択により様々な物性を実現できるためだ。ナノスケールでは、 従来の機械で使われる金属やプラスチックのような固い材料とは異なる性質のものが活躍すると考えられる。 その時は分子レベルで流体について考えることがとても重要になるのだ。

論理的な思考力を磨こう

 研究では実験やシミュレーションの際の切り口、そしてその結果の解釈が重要だという。 たとえばミカンをどの方向から切っても、中身に関するさまざまな発見が得られる。だが応用を考える工学では、目的の設定と、 どうすればその目的を達成できるかを論理的に考えなければならない。つまりミカンの房の数が知りたければ、適当な角度で適当な場所を切る必要があるということだ。

 先生は大学時には航空部でグライダーに打ち込んでいたとのことです。卒業後に新しく集中したのがゴルフ。 はじめると集中して取り組むそうで、それぞれ10年くらいのサイクルでいろいろなものに打ち込んでいるようです。 現在の趣味は検討中のこと。最近バイクの大型免許を取ったとのことでした。

小原 拓
Taku Ohara
東北大学 流体科学研究所 教授
1986年に東京大学工学部を卒業、1991年に東京大学大学院工学系研究科の博士課程を修了。 1991年に東北大学 流体科学研究所の助手、1995年に助教授、2006年より教授。専門は機械工学・熱工学・分子熱流体工学。 液体・界面・薄膜の熱流体現象に関する分子動力学解析などの研究を行う。
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