File.34赤血球はどうやって酸素を運ぶ?

 赤血球は体のすみずみまで酸素を運ぶ役割を持っている。とくに酸素の放出が行われる場所は、毛細血管などの細い血管からなる「微小循環系」とよばれる領域だ。毛細血管の太さは直径4マイクロメートルしかない。一方、赤血球は直径8マイクロメートル、厚さが2マイクロメートルの中央がくぼんだ円盤状だ。そのままでは血管より大きいが、赤血球は柔軟に変形するため、毛細血管も通過することができる。この赤血球の変形する能力は、微小循環系において酸素が放出されるメカニズムにも関係しているのではないかと考えられている。
 そこで宮内先生は、コンピュータシミュレーションからそのメカニズムに迫るための、ベースとなる計算方法を開発した。右下の図は、移動する赤血球の膜モデルから酸素が出ていく様子を想定したシミュレーション結果だ。赤血球を包む膜は、酸素濃度の高い場所では内部に酸素を取り込み、低い場所では酸素を放出する性質を持っている。このシミュレーションの特長は、従来の方法より、膜が持つ情報を液体に正確に与えられることだ。また酸素は透過させるが、より大きな分子は透過させないなど、物質によって透過量を自由に設定できる。今まではすべての物質を透過させるか、まったく透過させないかどちらかの条件でしか計算されていなかった。先生は今回のシミュレーションの妥当性を確認しており、この計算方法をベースにして、赤血球の変形などを考慮したシミュレーションへと研究を進めていく予定だ。

今後、先生が取り組みたいと考えるのが、細胞レベルの小さなスケールにおける物質の輸送現象の数理モデル(数式で表したモデル)を作ることだそうです。ミクロなスケールでは、一つひとつの分子を追いかけることができる分子動力学という方法が用いられます。得られた分子動力学的な特性を、マクロの世界で使われる流体力学のモデルに組み込んで計算できるようにしていきたいとのことです。

宮内 優
Suguru Miyauchi
東北大学 流体科学研究所 助教
2008年に明石工業高等専門学校 機械工学科を卒業後、大阪大学工学部 応用理工学科に編入学し2010年に卒業。同年、大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻に入学し、2015年に博士号を取得。同年より東北大学 流体科学研究所の助教。
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