File.38燃料電池の性能を設計する

 燃料電池は水の電気分解と逆の反応を利用する発電装置だ。電気分解では、水に電流を流すと水素と酸素が発生する。それとは逆に、水素と酸素を反応させれば水と電気を作ることが可能だ。
 燃料電池の内部では、水素が水素イオンとなり、高分子膜とよばれる膜の中を通過する。水素イオンが速く流れれば発電量も多くなる。水素イオンが通るのは膜の中でもとくに水が存在する場所だ。だが水が多すぎてもかえって流れにくくなる。そのため水素イオンの通路は確保しつつ、膜全体ではなるべく水の少ない状態が理想的だ。そこで馬渕先生は、まず膜内の水の通路はどんな形がよいかをコンピュータシミュレーションにより検討したところ、ある太さの円筒状が、もっとも水素イオンを通過させることが分かった。
 続いて検討したのが、円筒状の通路の作り方だ。高分子膜は、長い鎖状の高分子がからまり合うように集まってできている。高分子の鎖に枝のように付いている分子には、水に結び付きやすい性質(親水性)を持つものとそうでないものがある。それぞれの割合や数を変えることで、高分子膜の内部の構造もコントロールすることが可能だという。先生たちは親水性を持つ場所がなるべく円筒状になるような高分子をシミュレーションで検討しながら、実際の膜も作り、より性能のよい高分子膜を目指しているということだ。
「コンピュータの進歩によって、分子レベルでの非常に複雑な計算が可能になりました」と馬渕先生は話す。一方、小さなスケールではまだ分からないことが多い。今後このようなシミュレーションを活用した研究の重要性はますます高まりそうだ。

先生の趣味の一つが投資だそうです。先生が高校時まで住んでいたアメリカでは、資金を必要とする会社や団体を応援するという考えが根付いており、投資や寄付が身近とのこと。学校では投資を学ぶ機会もあり、仮想マネーで資産を増やすことができれば成績に反映されるといった授業もあるそうです。

馬渕 拓哉
Takuya Mabuchi
東北大学 流体科学研究所 助教
2011年に東北大学工学部を卒業。2016年に東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻にて博士号を取得。2016年にカナダのサイモン・フレーザー大学の客員研究員、東京大学で日本学術振興会 特別研究員(PD)、のち東北大学 流体科学研究所の特任助教。
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