File.44スパコンでデザインする次世代の翼

流れには人を引き付ける力がある。とくに乱流の謎は昔から人の好奇心をかき立ててきた。レオナルド・ダ・ヴィンチは水中にできる渦の詳細なスケッチを多く残している。一方、量子力学の父とよばれるハイゼンベルクは学生時に乱流を研究していた。彼が言ったとされる「神に相対性理論と乱流の2つの謎についてたずねるとすれば、相対性理論については答えをくれるだろう」というセリフは乱流の理解の難しさを物語っている。
「流体の方程式は複雑すぎて人の手では解けませんでした。ですがスパコン京に代表されるハイパフォーマンスコンピューティングや超並列化計算技術の進歩が、複雑な流れの理解に迫りつつあります」と流れの現象の理解と制御を研究する焼野先生は語る。
先生が今、取り組んでいるのが、三菱航空機による初の国産ジェット旅客機「MRJ」の次世代機に採用が検討されている「層流翼」の形状検討だ。層流翼は、翼の表面の流れをなるべく乱れがない層流状態に保つことで、翼に生じる抵抗を減らす。かつては実験をベースにした研究が行われてきたが、近年、層流翼に必要な滑らかな翼面を作る技術が進化するとともに、コンピュータによる解析が可能になっていることから再び注目されている。現状大型旅客機の主翼への採用はないが、各社が検討を進めているところだという。
焼野先生は「研究を通じて民間航空機産業の発展に少しでも貢献できれば」と話す。次世代旅客機はどのような翼で空を飛ぶのだろうか。今からその姿が楽しみだ。

自然が好きで、NHKの番組「プラネットアース」がお気に入りとのこと。番組では美しい映像を通して、地球を単なる惑星でなく、生物も含めた一つのダイナミックな系として実感できるそう。宇宙に出ていく時代だからこそ、より地球の尊さを感じるといいます。写真は出張時に飛行機から見たアルプスの山並みです。