File.46ステントの性能評価の確立をめざす

 ステント(右の写真で先生が持っているもの)とは、網目状の金属でできた筒形状の医療器具だ。血管の内部に配置することで、血管が膨らんで破裂する動脈瘤や、血管が狭くなる狭窄などの治療に使用される。
 さまざまな特徴を持ったステントが開発されているが、それを人の体でテストすることは不可能だ。そこでテュパン先生は、人工の血液循環システムを開発し、ステントの客観的な評価指標を確立しようとしている。開発中の装置は、血管内の任意の場所の圧力や流量、流速などを計測できる。またステントを人工血管の中に置いた際の、流れの様子を可視化することも可能だ。
 このシステムでは、患者個人のCTスキャンデータと、本物のような質感を持つ材料を使った血管モデルを採用する。そのため、医師が手術のシミュレーションをしたり、患者個人にあわせたステントを検討したりすることが可能なのだ。また手術中には、リアルタイムで患者のエックス線画像を確認したりするが、開発中のシステムでも、そのような実際の環境に近い状態が再現されている。そのため医師からも、リアルな手術のシミュレーションができると好評だという。シミュレーション時の計測データを収集できるため、ベテラン医師の技術を分析して若手が勉強に役立てることも可能だ。
 テュパン先生は、「医療の現場には、従来の医学の知識だけでは説明できないことも多いです。一方、工学だけでは、どのような技術が現場の役に立つのか分かりません」と課題を話す。先生のような積極的な分野を超えた取り組みが、新しい医療を切り開くに違いない。

 先生にとって、家族との時間が何よりも大切とのこと。オフにはプロのダンサーである奥様のダンスを見に行ったり、映画を見たりして過ごすそうです。温泉旅行も楽しみの1つです。また研究だけでなく、趣味でもよくものづくりをするとか。赤ちゃんの見守りシステムをはじめ、いろいろなものを自作しているそうです。

Simon TUPIN
東北大学 流体科学研究所 特任助授
フランス出身。2011年12月より仏リヨン大学のECLおよびENISEにおいて博士課程に在籍し、2015年6月に博士号を取得。その後、東北大学 流体科学研究所の産学官連携研究員を経て、2017年9月より特任助教。
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