File.48細胞の生きる環境を体の外で再現する

 どうすれば体の中で起こる現象を観察することができるだろう。たとえばがんがどのように進行していくかを知りたい場合は、体内にあるがん細胞や、その周辺環境について観察する必要がある。しかし生きている人の体の中を観察することは、とても難しい。
 そこで注目されているのがマイクロ流体デバイスだ。これはシリコーンゴムやガラスなどの透明な基板上に、細胞培養流路などを作り込んだ装置である。流路の幅は数十マイクロメートルから1ミリメートルと非常に小さい。また細胞の活動は、細胞自身だけでなく、周辺環境との相互作用によって成り立つ。そこでマイクロ流体デバイスでは、細胞周囲の酸素濃度や化学物質の濃度、力学的な刺激などを、最適に配置した各種流路で調節することによって、体内の環境をミニチュアサイズで再現する。
 船本先生は、高い精度で酸素濃度をコントロールできる500円玉サイズのマイクロ流体デバイスを開発し、乳がん細胞を観察した。がん細胞は増殖のために多くの酸素を必要とする。そのため周囲の酸素濃度が低くなると細胞の活動は鈍くなると考えられたが、よりいっそう活発に活動していることが分かったという。
 また先生は、マイクロ流体デバイス上で脳の微小血管網を作製し、その頑丈さやダメージが起こるメカニズムを調べている。脳の血管は驚くほど丈夫な一方で、事故や病気によって出血や脳障害が起こることもある。「なぜそのような現象が起こるのか分かれば、予防方法や治療薬の発見につながる」と先生は話す。手のひらサイズの装置は将来、人がより健康に生きることに貢献するだろう。

先生の日課は、飼っているセキセイインコに言葉を教えることだそうです。朝は食卓に飛んできて家族の点呼を取ったりするムードメーカーだとか。とても勉強熱心で、毎日先生の肩に乗ってきて言葉を教えてとせがむそう。今ではある程度、会話もできるほど上達しているそうです。

船本 健一
Kenichi Funamoto
東北大学 流体科学研究所 准教授
2007年に東北大学大学院工学研究科において博士号を取得。2008年に東北大学流体科学研究所の助教、2015年に同大学学際科学フロンティア研究所の准教授。2019年より同大学流体科学研究所。米マサチューセッツ工科大学、仏リヨン第一大学の研究員も務めた。
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