File.50メタンハイドレートの分解が見えた!

 流体の流れや、流体中の熱の移動を目で見ることは難しい。神田先生はこの「熱物質移動」について、密度の揺らぎに着目して可視化する技術の研究開発に取り組んでいる。
 この技術を使って可視化したのが、メタンハイドレートの分解反応だ。メタンハイドレートは水とメタンからなるシャーベット状の物質で、燃える氷ともいわれる。海底の地層など低温高圧の環境で安定して存在する。日本近海に大量に存在することが確認されており、我が国の新たなエネルギー資源として期待されている。
 メタンハイドレートを実用化するためには、温度を上げるか、圧力を下げてメタンハイドレートを分解させ、メタンを取り出す必要がある。だが分解の過程は詳しくはわかっていなかった。先生はレーザーを用いた位相シフト干渉計や高速度カメラなどを応用し、高圧気体下におけるミリ秒レベルの高速な反応を可視化することに成功した。
 さらに神田先生は、この可視化技術を土壌汚染問題の解決にも役立てようとしている。二酸化炭素を高圧で超臨界という状態にすると、溶解度が変化する。この超臨界流体にダイオキシン類などの汚染物質を溶かし出して土壌を浄化する方法が検討されている。高圧環境で高速な反応を可視化する技術が、溶解過程の観察にも役立つのだという。
 神田先生は「以前からエネルギー問題に興味を持っていましたが、高校3年の時に福島市で東日本大震災に遭い、その思いは一層強くなりました」と語る。地球環境との共存をカギに、これからも先生の研究は進化を続けそうだ。

以前からずっと親しんでいる趣味が音楽だそうです。中学生の時にベースギターを弾き始め、バンドを組んでライブハウスでの演奏も経験したとか。大学入学後は軽音楽部に入り、ロックバンドとして仙台のライブハウスに数多く出演。曲作りやCDの販売も行うなど、活発に活動していたそうです。

神田 雄貴
Yuki Kanda
東北大学 流体科学研究所 助教
2009~2010年に東北大学「科学者の卵養成講座」の受講生。2015年に東北大学工学部を卒業。2020年に東北大学大学院工学研究科機械機能創成専攻で博士号を取得。同年より東北大学流体科学研究所の助教。2020年に東北大学総長賞を受賞。
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