File.51数値顕微鏡でみる原子と熱の世界

 スマホやタブレットを使用しているときに、本体が熱くなった経験は誰にでもあるだろう。これは、機器の小型化や高性能化の中で、CPUの処理能力が大幅に上がっているためだ。CPUから発生した熱は、金属板に接触させたりすることで本体の外に逃がされる。だが、ミクロのレベルでみると金属板の表面はでこぼこだらけだ。接触面の熱の伝わりやすさを高めるためには、接触面でどんな現象が起こっているのかを知る必要がある。だが、接触面の内部を観察したり、温度変化を測定したりすることはとても難しい。
 そこで、Donatas先生が取り組むのが、接触面を原子スケールでモデル化し、コンピュータで熱輸送をシミュレーションする方法だ。数値計算の結果をグラフィックで表現すれば、あたかも接触面内部を原子レベルにまで拡大したかのように“観察”できる。そのため先生はこの手法を「数値顕微鏡」と表現する。
 現実の世界では、金属の種類や、熱伝導率を高めるため間にはさまれるグリース、でこぼこの程度や固体と液体が引き合う力など、さまざまな要因が重なって、熱の伝わり方が決まる。熱伝達について知るためには、どのような条件でも容易に試せるシミュレーションが非常に有効だと先生は語る。
 先生は最近、世界中の研究者が利用する分子動力学シミュレーションソフトウェアの中で、熱に関する誤りをみつけ、ソフトウェアの修正に貢献した。原子レベルから熱の本質に迫る先生の研究は、身の回りの電子機器をはじめ、あらゆる場面の熱問題の解決に貢献していくだろう。

プログラミングが得意なDonatas先生は、自身の生活でも自作プログラムを活用しているとか。リトアニアから日本に来た当初は日本語学習に便利なプログラム、希少な本をみつけるため販売サイトを巡回するプログラムなど。「パソコンさえあれば何でもできる」のだそうです。

Donatas SURBLYS
Donatas SURBLYS
東北大学 流体科学研究所 助教
リトアニア出身。2014年に大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻にて博士号を取得。JSPS特別研究員、大阪大学の特任研究員および独ダルムシュタット工科大学の客員研究員を経て、2016年より理化学研究所の特別研究員、2018年より東北大学流体科学研究所の助教。
  • ●数値顕微鏡
  • ●熱輸送
  • ●分子動力学法
  • ●ナノスケール現象
  • ●ぬれ性
  • ●界面