File.52医師のように材料の内部を診断する

 石油をはじめとする化石燃料の埋蔵量は有限だ。いつかは枯渇してしまうことから、代替エネルギーの研究が進められている。候補として期待されているものの一つが水素だ。だがたとえば自動車において、水素を使う燃料電池車は、電気自動車ほど実用化が進んでいない。その理由として武田先生は「水素は比較的扱いにくい燃料」だということを挙げる。水素原子は陽子1つと電子1つからなるシンプルな構造だ。この小ささのために、タンクや配管などの材料内部にどんどん侵入していく。そして材料の構造を変化させ、最終的に破壊してしまうのだ。
 これは水素を扱う際には避けて通れない問題であり、さまざまな対策が行われている。だが、水素が材料を変化させるメカニズムはほとんどわかっていない。そこで先生は、内部の変化をリアルタイムで観察する研究に取り組んでいる。コイルを使って金属材料の内部に誘導電流を起こし、磁気特性の変化を読み取っていく。いわば体の内部の音を聴診器で聴き何が起きているのかを探るような繊細な方法だ。破壊のメカニズムについて仮説を立て最適な実験方法を考えるのは難しいが、だからこそやりがいがあると先生は語る。
 さらにこの技術を生かして、素材の加工プロセスのモニタリングにも取り組みたいという。騒音が多いため難しいとされてきた分野だ。またゆくゆくは材料の生産プロセスの観察を通し、新規材料の開発にも応用できると考えている。観察手法によっていっそう身の回りの材料が進化していくという醍醐味を感じられそうだ。

先生の趣味はカードゲームのマジック:ザ・ギャザリングだそう。戦略が多彩で奥が深く、世界中にプレイヤーがいます。ルールさえ共有すれば言語の壁を越えて楽しめるのも素晴らしい点だそう。フランスに留学した際は、フランス語を話せなくてもゲームを通じて交流できたそうです。

武田 翔
Sho Takeda
東北大学 流体科学研究所 助教
2013年に信州大学を卒業。同年より東北大学大学院、2016年よりフランス国立中央理工科学校リヨン校の博士課程に在籍、2018年に東北大学にて博士号を取得。同年より東北大学学際科学フロンティア研究所の学術研究員、2019年より流体科学研究所の助教。
  • ●電磁非破壊試験
  • ●水素脆化
  • ●材料劣化診断
  • ●モニタリング
  • ●材料科学
  • ●材料成形