File.53最も難しい燃焼のシミュレーションに挑む

 水や大気の流れ、建物や自動車の強度など、身の回りのあらゆる物理現象を知るためにシミュレーションが使われている。中でも最も難しいといわれるのが、自動車や船などのエンジン内部の燃焼現象のシミュレーションだ。
 エンジンは化石燃料の使用量削減のため更なる効率の向上が求められていることから、シミュレーションのニーズが高い。エンジンの効率は、燃焼室の圧力を上げるほど高くなる。だが高温になると燃焼ガスがあちこちで勝手に発火してしまう。この異常燃焼のメカニズムを調べるためにはシミュレーションが有効だが、流体方程式に加えて、化学種が1000種も発生するという複雑な化学反応方程式を解かなければならない。そのため今までは計算に膨大な時間が掛かっていた。
 そんな異常燃焼のシミュレーションの速度を劇的に向上させたのが森井先生だ。化学反応が持っている特性をうまく数値計算に組み込むことにより簡潔化に成功した。計算時間は1000分の1にまで短縮されたという。しかも従来の手法は一人では書けないほど膨大なコードになっていたが、先生の手法だと10分で書けてしまう。ちなみにこの手法の名称「ERENA法」は奥様の名前から付けたそうだ。
 この手法によってはじめて異常燃焼のシミュレーションが現実的になったといえる。今後はより手軽にシミュレーションできるように、さらなる計算時間の短縮を目指すという。将来、革新的な自動車が発売されたとき、そこには先生の研究が貢献しているに違いない。

先生の趣味はテレビゲームだそう。最近のゲームや映画のCGは物理方程式を解いて表現しているものも多いとか。飛行機が飛んだ後の空気の流れや炎の揺らめき、人体の動きなど、小さなゲーム機で美しくリアルに表現されたCGを見ると、自分もよりよい結果を出したいと刺激を受けるそうです。

森井 雄飛
Youhi Morii
東北大学 流体科学研究所 助教
2007年に大阪大学を卒業。2012年に総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻にて博士号を取得。同年よりJAXA、2017年より早稲田大学次世代自動車研究機構自動車用モデルベース制御研究所を経て、2018年4月より東北大学流体科学研究所の助教。
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