File.55炎が奏でる音を聴く

 炎は音を奏でることを知っているだろうか。ガスバーナーの炎に細い管をかぶせると、一定の周波数の音が発生する。管の長さによって音程を変えることもできる。
 音は、炎が不安定になることによって発生する。炎が振動することにより、燃焼エネルギーが音波に変換されるのだ。だが、炎が不安定になる条件は、はっきりとわかっていなかった。Dubey先生は、管の長さや太さ、炎の燃焼速度などを変えて炎の形状などを観察した。そして不安定になる理由について仮説を立て、実験により理論が正しいことを裏付けた。
 炎によって音が生まれる現象はとても魅力的だが、ガスタービンの燃焼器やガソリンエンジンなどの内燃エンジンでは問題を起こすことがある。激しい燃焼エネルギーが、非常に大きな音を発生させるためだ。音は周囲に衝撃を与え、エンジンの寿命を縮めたり壊したりすることがある。エンジンが動いている途中に異音が発生するノッキングという現象があるが、先生の理論は、ノッキングのシミュレーションを行った際の結果を説明するのにも役立つという。
 Dubey先生は、炎が音を発生させる現象に取り組む理由について、「マルチフィジックス(複数の物理現象を扱う問題)であること」をあげる。燃焼は熱伝達と化学反応が関わり合う現象だが、そこに音波が加わると、より複雑さが増す。その複雑さに興味をかき立てられるのだという。今後はこれらの現象をより深く理解しながら、エンジンの効率向上にもつなげていきたいということだ。

先生は休日には娘さんとハイキングで自然を満喫したり、クリケットをしたりするそうです。クリケットは先生の出身地であるインドやオーストラリア、イギリスなどで人気の球技で、競技人口はサッカーに次いで多いといわれます。先生は東北地方の代表チームとして全国大会にも出場したことがあるとのこと。写真の右が先生で、投手としてボールを投げているところです。

Ajit Kumar DUBEY
Ajit Kumar DUBEY
東北大学 流体科学研究所 助教
2010年にインドのサストラ大学を卒業。同年よりインド工科大学(IIT)ボンベイ校大学院航空宇宙推進分野、2013年より東北大学大学院、2017年に機械工学の博士号を取得。同年より北海道大学にて学術研究員、2020年より東北大学 流体科学研究所の助教。
  • ●燃焼
  • ●火炎不安定性
  • ●熱音響不安定性
  • ●火炎音響相互作用
  • ●エンジンノック
  • ●マイクロ・メソスケール燃焼