日本学術振興会 令和元年度国際共同研究事業 中国との国際共同研究プロジェクト(JRP with NSFC)日本学術振興会 令和元年度国際共同研究事業 中国との国際共同研究プロジェクト(JRP with NSFC)

超臨界流体による汚染土壌の改質・浄化
ー 高効率分離促進技術の開発 ー
Supercritical Fluid Assisted Contaminated Soil Remediation: Key Mass Transfer Issues and Technological Development
超臨界流体による汚染土壌の改質・浄化 ー 高効率分離促進技術の開発 ー Supercritical Fluid Assisted Contaminated Soil Remediation: Key Mass Transfer Issues and Technological Development

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研究内容
Research

本事業の目的

本事業では、超臨界流体を用いた汚染土壌の改質技術の理論構築とキーテクノロジーの確立を目指しています。超臨界条件下における作動流体内の特異な物質移動現象とその相互作用を理解し、超臨界流体を用いた高効率低環境負荷の汚染土壌改質手法を確立します。
中国との国際共同研究プロジェクト事業の下、中国側研究者が有する超臨界流体の学術的知見と、日本側研究者の物質輸送現象可視化および制御技術の融合 により、環境汚染対策問題に対して持続的に利用できる新たな技術を提案するものです。

研究指針

当研究室はこれまでに光学系を駆使した物質輸送現象計測システムを構築し、極限環境下における物質輸送現象に関する研究を進めてきています。
本事業ではこの計測システムを有効利用し、超臨界流体を用いた汚染物質の改質技術の確立をするために、以下の3基軸を研究指針としています。

基軸1: 超臨界条件下における物質輸送現象を定量的に理解し、モデル化する

超臨界流体では諸物性値に特異な性質が現れます。特に流体の高溶解性や物質伝達係数等が大きく変化し、熱・物質移動が通常条件下のそれらと大き く異なることが知られています。この現象を実験的に明らかにし、超臨界状態における物質移動理論の構築に向けたパラメトリックなデータの取得を行います。 超臨界状態は「Liquid-like」な状態と「Gas-like」な状態に分けることができ、これらの両状態において界面での反応状態、および物質輸送現象がどのように変化 するかをcmオーダーの超臨界チャンバを用いた実験(小スケール実験)で確認します。併せて亜臨界状態における現象も観察し、臨界点近傍における物質輸送現象の 不連続的変化を実験的に捉え、それらをモデル化 / マッピングします。

基軸2: 超臨界流体と汚染物質の相互作用を分子スケールで明らかにする

超臨界条件下における物質輸送現象の実験的解明に並行して、汚染物質と超臨界流体の相互作用を理論的に分子レベルで明らかにします。 超臨界状態では上述のように特異な現象が現れますが、分子スケールにおけるどのような相互作用が溶解性の変化等に起因しているのかを、数値シミュレーションモデルを構築して明らかにします。汚染物質、特に重金属や多環芳香族炭化水素(PAHs)などの超臨界流体中の溶解性や物質伝達特性は実験より明らかにします。

基軸3: 汚染土壌内における複雑物質輸送現象を明らかにし、土壌汚染の改質技術を確立する

分子レベルにおける超臨界流体と汚染物質の相互作用モデルを基に、実際の汚染土壌における物質輸送現象を、~mスケールの実験(大スケール実験) を通して明らかにし、汚染土壌の改質・浄化の技術を提案します。汚染土壌中には複数の汚染物質が含まれていることから、実験では多孔質体を用いて 多他成分系の物質輸送現象を模擬し、超臨界条件下における急速吸収・分離過程のメカニズムを明らかにします。

基軸図

研究計画

令和元年度(3か月):実験装置の準備、国際共同研究に向けた準備

必要な計測機器の購入を行い、過去の研究の調査等、国際共同研究を開始するにあたっての情報収集を行います。 中国側研究者らと基礎となる過去の研究知見を共有化します。

令和2年度:理論構築、小スケール実験実施、土壌サンプルの物性取得

中国側申請代表者が既に行っている超臨界流体の熱物質輸送理論を基に、微小流体界面での反応現象を高精度可視化します。 併せて、汚染物質の諸物性値を取得し、大スケール実験に繋げていきます。

令和3年度:数値計算コードの構築、分子動力学計算、溶解性実験実施

汚染物質と超臨界流体間の相互作用を、分子動力学をはじめとした数値解析的アプローチから解明します。 また、超臨界流体中の溶解性や物質伝達特性を実験的に明らかにします。

令和4年度:超臨界条件下における物質輸送現象の理解、理論との比較

中国側研究者らと共同して、実際の汚染土壌を用いての超臨界環境下での物質輸送観察実験(大スケール実験)を開始します。 並行して、超臨界環境での物質輸送理論との比較を行います。

令和5年度:大スケールの実験実施、多成分汚染物質系での実験実施

上記大スケール実験を主として行い、実際の汚染土壌における物質輸送現象を明らかにします。土壌成分を多成分系に拡張し、 実環境に近い条件での物質輸送特性を明らかにします。

令和6年度(9か月):汚染土壌の改質・浄化過程の解明、技術の確立

研究総括を行う年度になります。これまでの実験的・解析的アプローチによる知見を融合し、超臨界流体を用いた汚染土壌の改質技術を提案します。

研究計画図

研究体制

日本側では、主として実験を担当し、中国側では申請代表者らが提案している超臨界流体での物質輸送理論を基に数値解析の実施を担当します。
さらに、日本側の計測技術を共有し、土壌汚染改質・浄化の実スケール実験においては、中国側と並行して進めることにしています。
両研究グループ ともに両者共有の既存計測技術、解析技術を利用することで、それぞれの研究役割を推し進めていきます。

研究体制図