3. コロイド分散系における
レーザー誘起相転移現象の
計算機実験による研究
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A. 研究目標 B. 研究内容 C. 研究成果

A.研究目標

相転移現象は水の3態の変化をはじめ、日常生活にも非常に多く見出せる現象であるが、物理学的、工学的にも非常に興味深い現象である。相転移現象は3次元の系だけでなく2次元の系にも見出すことができ、本研究で扱ったコロイド分散系も2次元の系の相転移現象を研究する対象として広く用いられている。

レーザー誘起相転移相転移現象はChowdhury等が1985年に発見した。Chowdhury等は図1のような石英板の間にコロイド粒子が分散した水性溶液を封入したサンプルを作り、そこに2本のレーザーを干渉させて干渉縞を作った。するとレーザーの放射圧により図1の下部の正弦波で書き表されるようなポテンシャルが作られる。その結果、自発的な結晶化をしない濃度や温度の領域であるにもかかわらず、コロイド粒子は結晶的な配置を取り、レーザー強度をさらに上げるとレーザー干渉縞に平行な方向にはコロイド粒子が移動できるが、干渉縞に垂直な方向には動けない「異方性液相(Modulated Liquid)」が出現した。これがレーザー誘起相転移現象である[1]。

図1 実験系の模式図


本研究では、コロイド粒子間の相互作用とレーザー強度に着目し、ブラウン動力学法によって計算機実験を行ない、体系的にレーザー誘起相転移現象を研究することを目的とした。

B.研究内容

コロイド粒子はサンプルセル内では上下の石英板の電気的な反発力により2次元的な配置を取ることが知られているため、計算機実験では系を2次元のものとして扱う。コロイド粒子が受ける力で計算モデルに含めるのは以下の3つである。

(1) コロイド粒子宇同士の遮蔽クーロン相互作用
(2) レーザーの干渉縞にから受ける力
(3) 分散媒分子が不規則に衝突することによる揺動力

コロイド粒子は電荷を帯びているため電気的な相互作用をするが、コロイド粒子の周りには電気二重層が形成されているため単純なクーロン相互作用ではなく遮蔽クーロン相互作用をする。
レーザーの干渉縞の放射圧によってできたポテンシャルによってコロイド粒子が力を受けるのは前述のとおりである。
分散媒(周囲の水性溶液のこと)分子がコロイド粒子に熱運動によって不規則に衝突するが、コロイド粒子程度の大きさでは瞬間的にはその和が0にならないためこの力が無視できない。これはブラウン運動の原因として知られている。
以上の計算モデルに基づきコロイド粒子すべての運動方程式を立てて数値的に解いた。

C.研究成果

図2に計算機実験の結果得られた相図を示す。

図2 相図

相互作用が小さい領域(U0=1000, 1250)ではいくらレーザー強度を上げても結晶化しないが、相互作用が十分な領域(U0=1400, 1500)では結晶化する。U0=1400の時はレーザー強度が低い順に液相→異方性液相→結晶相→異方性液相→1次元液相となっているが、U0=1500の時は結晶相から異方性液相を経ずに1次元液相に転移していることがわかる。

次に、各相の特徴を示すが、その前に系の特徴を示す値である平均二乗変位について述べる。 平均二乗変位M2


で定義される。xiはi番目の粒子の位置ベクトル、Nは粒子数である。大雑把に説明すれば平均二乗変位M2は平均的な粒子の移動距離の二乗であり、これが時間に対してどのような挙動を示すかで系の状態がわかる。M2が時間の2乗に比例する場合は粒子は力学運動を行っていることになり、系の状態としては気体といえる。M2が時間に比例する場合は移動距離が時間の平方根に比例することになる。これは粒子が拡散運動をしていることを示しており、系の状態としては液体といえる。M2が一定値になった場合は粒子は止まっていることになるので、系は固体状態にあるといえる。

平均二乗変位及び全粒子の軌跡をプロットしたものを用いて各相の特徴を示す。本研究で扱った系はレーザーの干渉縞によって異方性があるため、平均二乗変位もx方向(干渉縞に垂直)とy方向(干渉縞に平行)な方向に分けて計算した。尚、平均二乗変位はすべて対数プロットにしてある。

U0=1400の時の各相の特徴
平均二乗変位M2
赤:通常のM2 緑:x方向のM2
青:y方向のM2 紫:傾き1の直線
軌跡(系の一部を表示)
液相 レーザー強度Ve/kBT=0.0の時
平均二乗変位が時間に平均しているため系は液相状態と言える。コロイド粒子は系全体を拡散運動するため軌跡をトレースすると全域に描かれる。
異方性液相 レーザー強度Ve/kBT=0.3の時
非常に拡散しにくいが、長時間では拡散運動を行っている。x方向とy方向で拡散係数が違うことも特徴である。軌跡は結晶のように見えるが、これは拡散係数が小さいために軌跡を取った時間のスケールではコロイド粒子が動いていないためである。
結晶相 レーザー強度Ve/kBT=1.0の時
平均二乗変位は一定になる。これはコロイド粒子が格子点付近で格子振動を行っていることを示している。軌跡は結晶格子点付近にのみ軌跡が描かれる。
1次元液相 レーザー強度Ve/kBT=1.0の時
粒子はx方向にはレーザーのポテンシャルに阻まれて動けないがy方向には比較的動くことができるため、平均二乗変位はx方向は一定になり、y方向では上昇し続ける。これが拡散運動であるのかは否かは今回課題として残してしまった。軌跡は結晶格子点付近に集まるが、上下に伸びて場所によっては上下の格子点に及んでいる。

参考文献

[1] A. Chowdhury, B. J. Acerson, and N. A. Clark, Phys. Rev. Lett. 55 (1985) 833.
[2] 千田 達也, 徳山 道夫, 寺田 弥生 コロイド分散系におけるレーザー誘起相転現象の計算機実験による研究 流体研報告,15,123-131(2004)


文責:平成15年度卒業生

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