File.39細胞の反応をトレーニングに生かす

 脳梗塞や脳出血、くも膜下出血や心筋梗塞などは、すべて血管が詰まったり破れたりすることによって引き起こされる病気だ。吉野先生は、こういった血管の異常が関係する病気のメカニズムの解明に取り組んでいる。具体的には、細胞と、細胞に対する物理的な刺激との関係を考える「メカノバイオロジー」という視点からこのテーマにアプローチする。血管には心臓の一定のリズムによって血液が流れる。そこで先生は培養した血管の内皮細胞と自作した実験装置で、細胞にどのような力が掛かり、それによってどのような反応が引き起こされるかを調べる。
 一方、先生は「物理的な刺激と健康や病気との関係を解き明かすだけでなく、健康やトレーニングを補助できるような装置を作るところにまで踏み込みたい」と話す。人が運動しているときは、酸素を体中に送るため血圧が一時的に上昇する。そういった血液環境の変化が人に及ぼす影響を調べることで、積極的に細胞の応答を引き出し、トレーニングの効率化や健康維持に貢献しようというのだ。例えば加圧トレーニングでは、専用のベルトで腕や脚を締め付けて血流をコントロールしながらトレーニングを行う。しかし、どのくらいの強さや頻度で行うのが適切かは正確には分かっていない。ミクロレベルにおける細胞の応答と、筋肉のつき方などとの相関関係が分かれば、より効果的なトレーニングが期待できる。また寝たきりで運動ができない人に対して、適切な刺激を与えることによって筋力が衰えるのを防ぐといった応用も期待できるのだ。

先生が今はまっているのが、海外で出会ったおいしい料理を再現すること。シンガポールに滞在した際はインド料理の一種であるロティ・プラタを日本に帰っても食べたいと考え、レストランや屋台に通って作り方をマスターしたとか。ほかにも何種類ものスパイスを混ぜて目指す味を作ったりと、料理は実験とも似ているそうです。

吉野 大輔
Daisuke Yoshino
東北大学 流体科学研究所 助教
2003年、東北大学工学部に入学、2006年に卒業。2011年、東北大学大学院工学研究科にて博士号を取得。2011年、富士フイルム株式会社に入社。同年、東北大学大学院医工学研究科の博士研究員。2012年より東北大学流体科学研究所の助教。2014年10月より1年間、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所客員研究員。2011年6月、The 2010 Duncan Dowson Prize (英国機械学会)受賞。
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