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東北大学 流体科学研究所システムエネルギー保全研究分野 高木・小助川研究室 三木研究室

研究内容RESEARCH

電磁パルス音響法によるFRP/金属マルチマテリアル接着接合部の非破壊評価

  • 軽量化のためのマルチマテリアルとその課題

航空機産業や自動車産業では、構造材の軽量化と部品点数の削減等を目的として、金属と繊維強化複合材料(FRP)を接合して利用する「マルチマテリアル化」の技術が注目されています。このマルチマテリアルの中では、特に接着剤を用いて2つの物体を接合する「接着接合」が高い軽量効果を発揮しますが、接着剤の劣化や欠陥を構造材の外側から非破壊的に評価・検査する技術は今のところ確立されていません。そのため重要な部材には接着接合を用いることができず、できたとしても、高い安全率をかけられて設計されているのが現状です。結果、軽くて強いFRPを使用したとしても保守的な設計に留まるため構造体の軽量化は最適化されないままとなっています。

  • マルチマテリアル接着部の非破壊検査

接着部はFRPと金属の間に挟まれています。多くの場合、FRPに発生する欠陥の非破壊検査には超音波探傷法(Ultrasonic Testing, UT)が利用されますが、FRPは弾性減衰が大きいため、FRPの厚さが数ミリメートルもある場合は探傷が困難となります。そこで当研究室では、電磁現象を利用する「電磁パルス音響法(Electromagnetic Pulse-induced Acoustic Testing, EPAT)」を提案します。

  • 電磁パルス音響法(EPAT)

EPATは、FRPの外部に近接した励磁コイルにパルス電流を与えて瞬間的にパルス磁場を発生させ、これにより接合部の金属を電磁力で励振して弾性波を励起し、これをFRP外側のセンサで受信・解析することで接着部の欠陥を検出するという手順を原理としています。観測される現象は複雑で、電磁力と弾性波の連成解析が重要となり、FRPの種類や積層構成、金属の電磁特性などが影響するため、これらと欠陥の規模や位置との相関性を定量的に評価し、対象に応じて最適なシステムの構築を目指しています。



  • マルチマテリアル用電磁パルス音響探傷器の開発

EPATを用いた探傷器の試作機として、高速コンデンサ充放電回路を使用し、最大毎秒50発の磁気パルスを発生できるコンデンサ充放電式高頻度磁気パルス発振装置を製作し、多連発パルス電流に対応できるコイルおよび走査システムと組み合わせることでFRP/金属マルチマテリアルの界面欠陥を非破壊検査できるマルチマテリアル用電磁パルス音響探傷器を開発しました(下左図)。本装置は単相AC100Vで駆動でき、充電電圧とパルス発生頻度を調整できる仕様となっています。電源部の外形寸法は430×430×180 (mm)、重量は20kgとなっているため本機は据え置き型となりますが、コイルは電源-リード線部で着脱できるカートリッジ式となっており、コイルを取り付けるアームの角度や走査ステージを調節することで様々な形状の試験対象に対応できます。計測はAEセンサ等の様々なセンサの信号を導入できるようになっていて、コイルを取り付けたアームの走査に合わせて経時的な音響信号の取得とチャート表示、FFTなどの信号処理、およびコンターの3次元表示機能を搭載しています(下右図)。


左図)電磁パルス音響探傷器の外観。右図)EPAT計測システムのフロントパネル。音響信号のコンターを示したもの(横軸:時間、縦軸:コイルの操作距離あるいは角度)。

本機に関するフライヤーを作成しました。


  • 可搬型電磁パルス音響探傷システムの開発

マテリアル用電磁パルス音響探傷器で得た知見を元に、機能を制限して電源・制御部を小型化したことで可搬型電磁パルス音響探傷システムの開発に成功しました。電源はバッテリーで駆動できるようにし、パルス発生頻度は0.6 ppsとして、コイルはマテリアル用電磁パルス音響探傷器用のものと互換性をもたせるようにしました。センサで受信した信号は探傷器本体で増幅・AD変換し、離れた位置にある解析用PCへ転送できるようになっています。本機を用いると、コイルが内蔵されているプローブをある程度の範囲で柔軟に動かせるので、屋外に据え置きとなる大型の高圧容器や航空機主翼内部などを対象に検査ができる仕様としています。


可搬型電磁パルス音響探傷システムの外観。@探傷器本体、Aバッテリー、Bコイル、C音響センサ、D解析用PC、E音響センサのアンプ。

本研究は「2019年度競輪とオートレースの補助事業機械振興補助事業・研究補助(開発研究)」『電磁パルス音響法によるマルチマテリアル接着接合部の非破壊評価装置の開発 補助事業』の補助を受けて実施されました。

システムエネルギー保全研究分野

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