超音速航空機へのエンジンインテグレーション問題
実機により近いシミュレーションに基づくエンジンインテグレーション
近年のコンピュータと計算手法の進歩によって,航空機開発における数値計算の分野でも翼のみのものから,翼胴形態,そして翼胴推進系形態と,実機に近い複雑な形態での計算が可能になってきている.
一方,推進装置が搭載された現実の機体での,運転状態による機体周りの流れ場のシミュレーションは最新の課題と言える.本研究では,まず,エンジンの作動によりナセル内の流量が変化し,運動量が増減することによって,機体の空力性能が変化することに着目した.そして,模型では管として扱われていたエンジンナセル内流路に絞りを設けた形状を用い,その運動量変化をエンジンの作動と見立てて,エンジン作動の変化による機体の空力性能を見積もる手法を確立した.現在ではこの問題をさらに発展させ,複雑な全機周り形状のCFD解析を行いながら,同時にナセル内部に粘性を考慮した計算手法の開発を行っており,全機周りだけでなく,ナセル内部,特にインテーク近傍の衝撃波を伴う流れ場を正確に把握することを目標とした研究を行っている.
構造-非構造接続法
本研究では内部と外部の流れの性質の違いや,翼胴ナセル周りの形状の複雑さを考慮して,超音速インテークからナセル内部流に関しては構造格子法を,全機周りには非構造格子法を適用して,計算格子を生成した.また,内部流の構造格子と外部流の非構造格子を1メッシュ分オーバーラップさせて,接合部で情報交換しながらCFD計算を行う構造-非構造接続法の開発を行った.
インテーク内部流では,衝撃波と境界層の干渉や逆圧力勾配での境界層の剥離を含むため,構造格子を用いて低レイノルズ数型k-ε乱流モデルを組み込んだNS計算を適用した.その一方で,粘性の影響は小さいが形状が複雑な翼胴ナセル周りの外部流には,形状適合性に優れた非構造格子を用いEuler計算を適用した.
また,実際のエンジン作動状態を模擬するために,ナセル内ダクトに絞りを設け,この大きさを変えながら計算を行った.
エンジンナセル付き形態のSST形状最適設計
実際の飛行状態により近い条件でのシミュレーションにより,エンジンナセルの形状や搭載位置,超音速インテークの形状だけではなく,他のコンポーネントの形状最適化をより現実に近い条件で行うことが出来るものと期待できる.本研究では遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた,ジェット実験機の最適設計システムの構築を目指している.
最適設計に当たっては,前述のエンジン作動状態を模擬したCFD解析をもとに,揚抗比の最大化や低ブーム化など推進系付全機周りの形状最適化に取り組む. 従来の航空機設計では,それぞれのコンポーネントを最適化し,それらを積み重ねるといった手法が主であったが,こうした方法ではコンポーネント間の空力干渉の影響を考慮することが出来ない.また,エンジンの作動状態の変化にまで踏み込んだ最適化は前例がない.申請者はエンジン作動条件を変化させながら全機周りの空力解析を行い,空力性能の変化を考慮しながら,機体の各コンポーネントを同時に最適化できる設計システムの構築を行う.
論 文
NUMERICAL SIMULATION OF SUPERSONIC FLOW AROUND WING-BODY CONFIGURATION WITH INTEGRATED ENGINE NACELLE
構造-非構造接続法によるNALジェット実験機機体統合超音速インテーク性能解析(航空宇宙技術シンポジウム2003アブストラクト)

Copyright, Integrated Fluid Infomatics, Shiegru Obayashi and Masahiro Kanazaki.
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