東北大学

代表挨拶

明治以来、150年にわたって連綿と築き上げてきたエネルギーシステムにより、わたしたちはとりあえず満ち足りたエネルギーを享受することができるようになりましたが、その一方で、そのシステムの脆弱さを強烈に体験しました。2011年、東日本大震災、そして福島第一原発事故、私たちは大きな転機に立ちました。

東北大学は、あの時の絶望を忘れることなく、そして次の時代に大きく羽ばたくために、エネルギーに関わる多様な研究や社会実装を束ねる全学的組織の学際研究重点拠点として「エネルギー価値学創生研究推進拠点」を立ち上げました。この組織を基盤として、先端的研究の更なる深化、融合研究の加速的促進、社会科学、人文科学分野との協働を通じてエネルギーに対する新しい価値学を切り開いていきたいと考えています。

世界全体では未だ11億人以上が、電気のない生活を送っている一方で、わが国においてはエネルギー消費量は減少しています。エネルギーをもっともっとほしい社会と、エネルギーはもう足りている社会と、世界のエネルギー事情は2分されています。

「エネルギー」研究は、きわめて広範な学術分野にまたがっており、また基礎研究、応用研究を経て社会実装が強く求められる研究対象でもあります。この東北から、持続的で心豊かな社会を築くために、世界に向けて新たなエネルギーの価値観を示していこうと考えています。

さらにこの拠点では、研究開発のみならず、東北大学自身の消費エネルギー量を大きく削減するプロジェクトを担います。単なる省エネルギーにとどまらず、創エネルギーなど能動的かつ研究的要素も含めてエネルギーの消費量を下げていく先端的取り組みを行います。

みなさまのご支援をよろしくお願い申し上げます。

環境科学研究科長 土屋 範芳 教授

目的

持続可能な社会で心豊かな社会を実現するためには、「エネルギーの新しい価値観」注1)の創造・展開を視野に入れた新しい観点の研究とその成果の社会実装が不可欠である。東北大学はこうした「エネルギーの新しい価値観」を生み出すための学問である「エネルギー価値学」注2)創生に向けて、理想とする持続可能社会からバックキャストし、その社会実現のために必要となる目標値(Factor of X)を設定し、エネルギー研究を戦略的に推進することで、自然科学、人文・社会科学の知見を融合した新たなパラダイム創出に貢献する。

目標

「エネルギー価値学」に基づく学術研究群を戦略的に立案して、多様な学際的研究プログラムを自立的に実施し、成果群を統合化することによって、地域成長を重視した地域新生・産業創造の実践までも包含した「東北大学エネルギーモデル」を提唱するとともに、このモデルを地域・日本・世界へと展開する。

注1)

「エネルギーの新しい価値観」とは、適切なエネルギーの使い方によってもたらされる心の満足度、生き方、エネルギー源の選択などに関わる新しい価値観のこと

注2) 「エネルギー価値学」とは、持続可能な社会の実現に向けて、適切なエネルギーの使い方によってもたらされる心の満足度、生き方、エネルギー源の選択などに関わる新しい価値観を創造・展開するための新しい学問である。エネルギーの源、その変換・利用・再生、そしてあるべき将来像までの全てを、エネルギーの「量」「質」「時間応答性」の3つの自然科学的基準と、エネルギーの「社会受容性」という人文・社会科学的基準からなる「4つの基準」により、総合的に俯瞰する学問である。