固体高分子形燃料電池内物質輸送現象の量子 / 分子動力学的解析
次世代電池ナノ流動制御研究分野

現在、地球温暖化対策が急務になっており、二酸化炭素を排出しない新しいエネルギー源の開発が急がれています。燃料電池はこの課題を解決する技術の 1 つであり、水素と酸素を反応させてエネルギーを取り出す際に排出されるガスが水のみであるため、カーボンフリーの電源として期待されています。特に固体高分子形燃料電池は作動温度が低温であること、出力密度が高いことから、家庭用燃料電池や電気自動車などに用いられています。

この燃料電池の性能を向上させ、システムの小型化、低コスト化を行うためには、燃料電池内部におけるプロトン、酸素、水などの物質輸送メカニズムを解明し、その輸送量を定量的に把握することが重要です。現在、様々な実験技術によりこの輸送現象の解析がなされていますが、今後の開発期間の短縮や開発コストの低減、また実験では計測が難しい領域の解析を考えると数値シミュレーションによる予測は必要不可欠と考えられています。

そのため、数多くの数値シミュレーションによる解析が試みられてきましたが、これらのほとんどが実験事実を定性的にも説明できていないのが現状です。この実験結果と計算結果の不一致は、燃料電池の内部では様々な部材がマイクロメーターからナノメーターまでの様々な微細スケールの流路を形成しているため、従来の連続体理論の解析ではこのミクロスケールの輸送現象を正しく予測することができないことから生じています。

このような観点から、当研究室では分子スケールのシミュレーションを用いて、固体高分子形燃料電池内部の物質輸送現象の解析を行っています。解析対象は燃料電池のシステムを構成する固体電解質膜内部、触媒層内部でのプロトン・酸素輸送現象や触媒層形成過程におけるアイオノマーの吸着現象などです。これらの研究は複数の燃料電池関連企業や大学の研究者とともに行われ、その知見は今後の燃料電池開発に大きく役立っています。

固体高分子形燃料電池内部の反応物質輸送特性の大規模分子シミュレーション

高分子電解質膜内部の水クラスター構造 (左)Nafion膜 (右)ブロック系炭化水素膜

白金表面上アイオノマーのミクロ構造と酸素透過特性シミュレーション

アイオノマー内部の水クラスター構造 (上) Nafionアイオノマー (下) SPP-BPアイオノマー