WORK研究内容

決定論的支配方程式による
非線形・散逸・偶然性の動力学

現在のフラッグシッププロジェクトは、JST CREST 予測数学基盤「決定論的支配方程式による非線形・散逸・偶然性の動力学」です。航空機の失速、風車の騒音、極超音速機の熱負荷。これら流体現象の背後には、ナビエ・ストークス方程式という決定論的な数式に潜む「分岐(Bifurcation)」の性質があります。本プロジェクトでは、数学者(幾何学・解析学)と流体工学者が連携し、従来統計モデルのみに頼っていた流動予測を、数理的根拠に基づく確かな体系へと進化させます。

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研究テーマ紹介

数値流体力学(CFD)と流体物理理論

「1%の燃費改善が社会を変える」
旅客機の燃費がわずか1%改善するだけで、国内全ての旅客機を合わせれば杉の木2000本が1年に吸収するCO2量を削減できます。私たちは、例えば後退翼周りや、極超音速飛行体の「層流から乱流への遷移」メカニズムを、世界最高水準の大規模DNS(直接数値計算)やLESにより解明しています。

動画:最高忠実度数値計算によるCRM主翼での乱流遷移のダイナミクス*
*Yuji Mori, Aiko Yakeno and Shigeru Obayashi (2024), DNS of Boundary-Layer Transition Over a Transonic Swept Wing Under Real Flight Condition, AIAA AVIATION FORUM AND ASCEND 2024, 4486

独自の微小表面粗さDMR (Distributed Micro-Roughness) を施工した模型の空気力学測定では、特定の流速域において大幅な抵抗低減を実証。従来の「滑らかなほど良い」という航空業界の常識を覆す発見です。

DMR粗面上でのTollmien-Schlichting不安定による層流-乱流遷移の様子*
*Shingo Hamada, Aiko Yakeno and Shigeru Obayashi (2023), Drag reduction effect of distributed roughness on the transitional flow state using direct numerical simulation, International Journal of Heat and Fluid Flow 104, 109230



データ科学とAI流体解析

「計算コストの壁を打ち破るAIイノベーション」
複雑な非定常現象(渦の放出など)を予測するには、莫大な計算コストが必要でした。我々はAI(遺伝的プログラミング:GEP)に物理法則を自ら学習させることで、解析の劇的な高速化に挑んでいます。こちらは、メルボルン大学のリチャードDサンドバーグ教授との共同研究です。

最新成果:計算コスト 1/180以下を達成*
*Atsuhito Kawabata, Aiko Yakeno, Shigeru Obayashi and Richard D. Sandberg (2026), A machine learning-based closure for unsteady RANS simulations of vortex shedding, Engineering Applications of Computational Fluid Mechanics, 20(1)

スパコンによる直接計算(DNS)の精度を維持しながら、そのわずか0.55%(およそ180分の1以下)の計算コストで非定常現象を正確に再現する技術を確立しました。設計者の手元のPCで、複雑な「風」を予測できる未来を実現します。

AIが切り拓く流体解析の「第三の道」 もっとみる



次世代空力実験(MSBS・弾道飛行装置)

「支持干渉ゼロ。究極の空気抵抗・熱流束計測」
私たちは、模型を何にも触れさせずに飛行・浮上させる「支持干渉フリー」な実験技術において、世界トップクラスの設備と技術を保有しています。

1m磁力支持天秤装置 (MSBS)
電磁力により模型を風洞内に浮上。支柱(スティング)による気流の乱れを完全に取り除き、微細な表面粗さ(DMR)の効果などを100%純粋なデータとして計測可能です。

世界最大1m磁力支持天秤装置(Magnetic Suspension and Balance System)を用いた空気力学測定

弾道飛行装置 (Ballistic Range)
火薬や高圧ガスで模型を射出し、マッハ5を超える極超音速域での実験を実施。世界最高性能の高速度赤外線カメラと独自の「像ブレ補正技術」により、飛行中の模型表面熱流束の測定に挑戦しています。

これらの装置は、ロケットの再使用化、極超音速飛翔体の熱防御システム(TPS)設計、そして将来の宇宙輸送のボトルネック解決に直結する重要な「Ground Truth(真実のデータ)」を提供しています。



新たなフェーズ 極限環境の熱流体数値計算および実験

今、我々は既存の「流体制御」の枠を超え、宇宙輸送のための 空力・熱・電気の統合制御 という未踏の領域へ足を踏み入れています。たとえば 私たちの提案する ADMR (Advanced DMR) は、宇宙輸送のボトルネックを、表面処理一つで解決?

01. 抵抗・加熱の抜本的低減

極超音速飛行(マッハ5以上)における空気抵抗を劇的に削減。それに伴う空力加熱を抑制し、ロケットや飛翔体の熱防御システム(TPS)を軽量化します。

02. 通信阻害(ブラックアウト)防御

再突入時のプラズマ流による帯電を、ADMRの微細構造による放電促進特性で抑制。従来の放電索に頼らない、新しい通信維持メカニズムを確立します。

03. 自己再生的な革新材料

極限環境の熱焼損に耐え、焼損後も最適なDMR構造を自己再生的に維持する革新的材料の開発。化学的手法と流体物理の高度な融合に挑みます。



世界最高峰の武器は揃った

我々には、この新フェーズを勝ち抜くための世界唯一の環境があります。

1m磁力支持天秤装置 (MSBS): 支持物干渉ゼロの純粋な空力計測。

弾道飛行装置: 極超音速飛行時のADMR実証と像ブレ補正赤外線計測。

大規模並列計算 (DNS/LES): スパコンを駆使した最高忠実度の流動再現。

既存手法のマイナーチェンジに留まらない、真の技術革新をここから起こしませんか。
数学的な鋭敏さと、宇宙への情熱を併せ持つ新しい仲間を募集しています。


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