流体研から社会へ 〜社会で活躍する先輩の声〜

シミュレーションと現実の融合する未来を思い描く

■F1で未来の設計技術にあこがれ

私は高専の制御情報工学科で、機械と情報に関わる勉強をしていました。子供のころからF1が大好きでした。ある日、自動車の雑誌を読んでいたところ、F1の空力設計者であるエイドリアン・ニューウェイという人が「10年後にはF1の空力設計で、数値流体力学(CFD)というコンピュータを使った流れのシミュレーション技術が利用できるようになる」と語っているのを目にしたのです。先生にCFDをやりたいと相談したところ、流体なら東北大学だと教えていただき、東北大に編入することに決めました。

■乱流遭遇時の大気流れをシミュレーション

  • 博士課程で取り組んだテーマは、航空機の乱流遭遇時のフライトデータを用いた、航空機周りの大気の流れの解析です。ここで用いたのがデータ同化という手法でした。現実世界をそっくりそのままコンピュータ上に再現してシミュレーションすることは、膨大なデータを得なくてはならないため実質的には不可能です。そのため、現実世界で取得できるデータを随時取り込みながらシミュレーションを行うという方法です。

■仮想空間と現実空間はどう結びつくか

  • 現在も引き続きデータ同化に関する研究に取り組んでいます。このような研究をしているため、仮想空間の現実空間との同期に興味がありますね。たとえばテスラの自動運転車は、取得した画像情報をもとに数百m先までの走行ルートを常に人工知能(AI)で予測しながら走行しています。現実空間における経験による学習と数値シミュレーションがうまく組み合わされば、未来を予測できるようになります。また仮想世界が登場する映画の『マトリックス』や『レディプレイヤー1』、また最近話題のメタバースなどがどのように実現されるのか考えるのも楽しいですね。

■専門知識と実践力を兼ね備えた高専生は強い

  • 最近、高専生が注目されています。高い専門性と実践する力を併せ持っていることが評価されているようです。15歳からの5年間、専門知識を自由気ままに学ぶ経験は何物にも代えがたいものです。ぜひのびのびと興味のあることに取り組んでください。流体研では細胞周りの流れから落下隕石の超音速流れまで、さまざまな流れに取り組んでいます。もし流体に関することに興味があるなら迷わず流体研の門をたたきましょう。先生や先輩が皆さんをサポートしてくれるはずです。

【Profile】
産業技術総合研究所
インダストリアルCPS研究センター
主任研究員 三坂 孝志
2001年に旭川工業高等専門学校を卒業。東北大学工学部に編入学、2008年に東北大学大学院 情報科学研究科にて博士号を取得。ドイツ航空宇宙センター研究員などを経て東北大学の助教ののち、2018年より産業技術総合研究所の主任研究員。