燃焼によるエネルギー変換は、良好な負荷変動追従性と大きさ・重量あたりの出力が高いという特徴から、推進・発電・加熱を目的とする様々なエネルギーシステムで利用されています。一方で、CO2の排出をなくすために、燃料を化石燃料由来から再生可能エネルギー由来に変更するという大きな変革が必要です。当研究室では、マイクロフローリアクタやバーナを用いた実験や反応素過程の数値シミュレーションにより、再生可能エネルギー時代の新燃料の化学反応や火炎の特性を理解し、モデル化して、ゼロエミッション燃焼器の設計開発に必要な燃焼数値シミュレーションの基盤を構築しています。また、新燃料の燃焼が燃焼器壁や被加熱物の材料に及ぼす影響も調べています。さらに、再生可能エネルギーを電気として蓄えるバッテリーや、高効率な冷暖房を実現するヒートポンプを対象に、これらの発火事故を抑制するため、主要な可燃成分である電解液や冷媒及びこれらに添加可能な難燃剤の燃焼についても研究しています。
アンモニア燃焼-窒素と水だけが排出される究極の低環境負荷燃焼
アンモニアは、再生可能エネルギーから製造可能、優れた貯蔵・輸送性、エネルギー利用時にCO2無排出、という特徴から将来のエネルギーキャリアとして有望視されています。一方で、炭化水素より燃えにくく、アンモニア中の窒素原子由来のNOx生成があるため、高効率・低NOx燃焼の実現には基礎的知見に基づいた新しい燃焼器が必要です。この設計開発のために、アンモニアの火炎の特性や反応素過程を調べ、モデル構築と検証を進めています。
アンモニアの基礎燃焼実験(左下:対向流火炎、右:マイクロフローリアクタ)と量子化学計算(左上)
バッテリー電解液と電解液に可溶な難燃剤のサロゲート燃焼反応モデル構築
リチウムイオンバッテリー(LIB)の出力密度とエネルギー密度の向上および利用機会の拡大に伴い、LIBの発火抑制が重要な技術課題になっています。LIB電解液の主成分である炭酸エステルを対象に、反応性の評価と燃焼反応モデルの構築を進めています。また、電解液に可溶な難燃剤としての利用が考えられているフッ化物・リン化物も対象にしています。これらにより、LIB電解液およびそれらに可溶な難燃剤の反応性予測のための基盤整備を進めています。
LIB電解液サロゲート燃焼反応モデルの概略図と難燃剤の熱分解反応経路
機械学習支援による簡易反応モデルの構築手法
詳細な燃焼反応モデルは数百から数千の化学種を含むため、これらの保存を全て解く燃焼数値シミュレーションは膨大な計算負荷を必要とします。燃焼器の設計開発や火災のシミュレーションを現実的な計算負荷で実施するために、燃焼特性の予測性能を維持しつつ、燃焼反応モデルに含まれる化学種を減らした簡易反応モデル構築法を研究しています。燃焼現象は極めて非線形性の強い現象であるため、従来手法では困難な超小型反応モデルを目指して、特に機械学習の支援を取り入れた簡易化法を研究しています。
遺伝的アルゴリズムを用いた簡易アンモニア反応モデル構築法