統合流動科学国際研究教育センター
先端統合流動科学研究分野(CPCラボ)
ディスティングイッシュトプロフェッサーS. Mani Sarathy(マニ
サラシー)
化学燃料を用いたエネルギー変換は、その高いエネルギー密度と運用上の柔軟性から、発電、輸送、および産業用途において依然として不可欠です。しかし、カーボンニュートラルを達成するためには、化石燃料から低炭素およびゼロ炭素のエネルギーキャリアへの移行が求められています。こうした背景のもと、私たちは、”Connected by a shared Purpose and Culture”(共通の目的と文化で結ばれた)というその名の通り、世界規模のエネルギー課題の解決に挑む研究室です。
当研究室の研究は、化学反応速度論、燃焼科学、およびエネルギーシステム工学を融合させることにより、次世代エネルギーシステムの理解と設計に重点を置いています。実験および数値シミュレーションを通じて、水素、アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)といった新たな燃料の基礎的な反応プロセスを探求しており、特に着火、火炎の安定性、および排出物(エミッション)の形成に注目しています。
これと並行して、技術経済性分析(TEA)およびライフサイクルアセスメント(LCA)を用いて、より広い視野からエネルギーシステムを評価し、環境面と実用面での実現可能性を担保しています。私たちは、基礎科学とシステムレベルの分析を組み合わせることで、高効率かつ低排出なエネルギー技術の設計と社会実装に向けたプラットフォームの構築を目指しています。
アンモニアおよび低炭素燃料の燃焼
アンモニアと水素は、炭素を排出しないエネルギー変換の可能性と、既存インフラとの親和性の高さから、有望なエネルギーキャリアとして期待されています。しかし、アンモニアは反応性が低く、NOx(窒素酸化物)の生成や毒性のある中間生成物の発生といった課題を抱えています。
当研究室では、実験と詳細化学反応モデルを用いて、アンモニアおよびアンモニア・炭化水素混合燃料の燃焼を支配する基礎的な反応経路を調査しています。特に、着火、火炎の安定化、汚染物質の生成、および従来燃料との相互作用に焦点を当てています。これらの研究を通じて、有害物質の排出を最小限に抑えつつ高効率を実現する燃焼技術の開発を支援しています。
アンモニア燃焼化学の実験および反応モデルによる解析。着火とNOx生成を支配する主要な窒素反応経路と中間生成物を示している。
参考文献: C. Shao et al, Combust. Flame, 2022; M. Kovaleva, 第61回燃焼シンポジウム(東京), 2023.
持続可能な航空燃料(SAF)の燃焼
持続可能な航空燃料(SAF)は、航空分野の脱炭素化において不可欠な存在ですが、原料や組成が多岐にわたるため、燃焼挙動や排出特性に不確実性が生じるという課題があります。特に、煤(すす)の生成や飛行機雲(コントレイル)への影響を含む「非CO2効果」の解明が極めて重要となっています。
当研究室では、SAFの燃焼特性や排出物を予測するための詳細反応モデルおよびデータ駆動型フレームワークの開発を行っています。これらのモデルを数値流体力学(CFD)シミュレーションと統合することで、燃料とエンジンの相互作用を評価し、よりクリーンな航空システムの設計指針を提示することを目指しています。
次世代エネルギーシステムとサプライチェーン
再生可能燃料の導入は、製造技術だけでなく、サプライチェーンの設計、インフラ整備、および政策的制約にも依存します。当研究室では、技術経済性分析(TEA)、ライフサイクルアセスメント(LCA)、およびシステム最適化を組み合わせた統合的なフレームワークを開発し、現実的な条件下における燃料経路(フューエルパスウェイ)の評価を行っています。
これらの研究を通じて、特定の地域や用途に最適化された、レジリエント(強靭)かつコスト効率の高いエネルギーシステムの設計を支援しています。
技術経済性、環境、およびシステムレベルの分析を通じて、燃料の製造、貯蔵、配送、インフラ、そして最終利用部門を繋ぐ、統合型再生可能燃料サプライチェーンのフレームワーク。
マイクロチップの液浸冷却
人工知能(AI)やハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の急速な発展に伴い、膨大な電力を消費し、大量の熱を発する大規模データセンターの需要が高まっています。最新の画像処理装置(GPU)は極めて高い電力密度で動作するため、従来の空冷や間接水冷技術の限界を超える深刻な熱管理の課題が生じています。
こうした背景から、電子部品を絶縁性の液体に直接浸す「直接液浸冷却」が、有望な熱管理手法として注目されています。当研究室では、高度な光学診断技術と数値モデリングを用いて、液浸冷却を支配する基礎的な熱輸送現象を解明しています。具体的には、位相シフト干渉計を用いたイメージング技術により、さまざまな動作条件下における伝熱特性の可視化と定量的評価を行っています。液体の物性、流動挙動、および電力密度が冷却性能に与える影響を系統的に評価することで、次世代の高性能計算システムに向けた、効率的で信頼性の高い冷却技術の開発を支援しています。
高出力電子機器の冷却システムにおける熱輸送と伝熱挙動を調査するために用いられる、直接液浸冷却の光学診断および干渉計イメージング

SAF原料の分類