所長挨拶

所長挨拶

東北大学流体科学研究所 所長丸田 薫

本研究所は、高速力学研究所として1943年(昭和18年)に創設され、1989年(平成元年)に当時の神山新一所長の下で改組転換され「流体科学研究所」となり今日に至っています。流体科学研究所は、流体科学の基礎研究を基盤とした先端学術領域との融合、および重点科学技術分野への応用に関する世界最高水準の研究を推進すること、また研究を通じて社会の諸問題解決に貢献すること、さらに国際水準の次世代研究者および技術者を育成することを使命と目標に掲げております。流体科学は、気体・液体・固体の流れを連続体の流動として扱うマクロな視点と、分子・原子・荷電粒子の流動として扱うミクロな視点の双方から、物質の流れのみならず熱・エネルギー、情報などのあらゆる流れを解明する学問領域です。研究対象を応用分野と関連づけると、エネルギー・環境、航空宇宙・機械、医工学、新デバイス、高機能材料・物質科学、流体システム等のキーワードが挙がり、また対象となる空間的・時間的スケールは広範囲におよびます。

本研究所は2022年(令和4年)10月、10年目を迎えた附属未到エネルギー研究センターを改組、新たに附属統合流動科学国際研究教育センターを発足いたしました。同センターは流体科学研究の確固たる学術基盤を基に、多様な応用分野における社会課題解決までを包含した新概念「統合流動科学」を提唱しています。従来の国際研究教育センターによる国際活動全般のサポートと、日仏の組織的協働で大きな成果を挙げたリヨンセンターの活動を統合・強化し、国際的な流体・材料連携研究を推進して参ります。今回の改組により連携研究の対象を、カーボンニュートラルや先進半導体と言った先端分野にまで大きく拡大、社会課題解決への貢献を目指しております。その結果本研究所は、流動創成研究部門、複雑流動研究部門、ナノ流動研究部門の3研究部門と、附属統合流動科学国際研究教育センターと附属リヨンセンター、さらに共同研究部門先端車輌基盤技術研究(日立Astemo)IIIを加えた31の研究分野、さらに研究設備に関する実務全般を支える技術室を擁する研究所となりました。

本研究所は2010年(平成22年)より、文部科学省に認定された流体科学の共同利用・共同研究拠点となっており、各教員が独自に行う共同研究の他、同事業により年間100件を越える内外機関との共同研究をサポートしております。さらに多様な研究活動を推進するため、研究所独自のスパコンを運用する未来流体情報創造センター、風洞・衝撃波関連施設を運用する次世代流動実験研究センター、航空宇宙関連の研究教育を推進する航空機計算科学センターを擁しております。

本研究所は2015年(平成27年)にVISION2030を採択、世界の共同研究ネットワークを活用し、2030年までに「流体科学における世界拠点」となり、安全・安心・健康な社会の実現、快適で豊かな社会の実現を目指す目標を掲げました。その中で研究出口戦略の一つとして研究クラスターという概念を導入しております。2021年には同VISION改訂を経て、環境・エネルギー、ナノ・マイクロ、健康・福祉・医療、宇宙航空と、社会課題解決の5つのクラスターを定義、今後は研究成果の社会課題解決への適用に、より重点的に取り組む所存です。その一環として、2021年度よりJSPS研究拠点形成事業「低炭素社会の実現に向けたアンモニア燃焼・材料国際研究交流拠点の構築」を開始、また2022年9月には所内教員による産学連携活動を大学全体に拡大した、IHI×東北大学アンモニアバリューチェーン共創研究所を創設しています。

現在の社会課題はより複雑で広い分野に跨がり、その解決には異分野連携や国際協力が必須です。物質やエネルギーの輸送・化学反応を含む現象を研究対象とする「統合流動科学」の特性を活かしながら、基礎および応用研究の両者に、内外の共同研究パートナーとの協働を通じて取り組む所存でございます。2004年(平成16年)から毎年仙台にて継続開催している国際会議ICFDは、コロナ禍を経て第19回を迎えた2022年、初めてハイブリッド開催され、23ヵ国からの外国人253名を含む、対面411名、合計610名の参加を集め、統合流動科学の国際ネットワーキングの場としての機能を内外に示しております。今後ともご関係各位のお力添え、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

2023年(令和5年)1月