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2025.03.04

【プレスリリース】機能性流体を用いて岩石の多方向にき裂を造成できる新しい岩石破砕法を開発-資源開発の効率が劇的に向上- (2025.3.4)

【発表のポイント】
・ずり速度によって粘度が大幅に変化するせん断増粘流体(STF)(注1)を水圧破砕の破砕流体として使用し、室内岩石実験でその効果を検証しました。
・これまでの水圧破砕では岩石は一方向にしか破砕しなかったのに対し、STFを用いると多方向に破砕できることを発見しました。
・これは多方向の流体の流れやすさを向上させるために、資源開発の効率が劇的に向上することが期待されます。

【概要】
 水圧破砕は、坑井(こうせい)(注2)を通して高圧の流体を地下に圧入し、岩石を破砕する(割る)技術であり、我が国に多く賦存する地熱エネルギー、シェールガス・オイル等の非在来型資源、地球温暖化対策として有効な二酸化炭素地下貯留等の地下資源開発において、必要不可欠です。き裂(岩の割れ目)を造成することは、地下の流体の流れやすさ(透水性)を向上させるため、効率的な地下開発につながります。しかしながら、通常の水圧破砕では、き裂が造成できる方向は地下の応力状態で決定され、それ以外の方向にき裂を造成し、透水性を向上させることはできませんでした。これが水圧破砕の技術的限界でしたが、もはやこれは、解決できる問題とも認識されていませんでした。

 東北大学流体科学研究所の椋平祐輔助教らの研究グループは、ずり速度によって粘度が劇的に変化するせん断増粘流体(STF)を、破砕流体として用いた室内岩石実験を行いました。その結果、これまでの常識を覆し、坑井から多方向に伸びるき裂を造成することに成功しました。

 本研究成果は、2025年2月15日付で科学誌 International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences に掲載されました。

 なお本成果は、Zhang Rongchang 大学院生、伊藤高敏教授、同大学環境科学研究科の博士後期課程の後藤遼太大学院生(現大成建設)、渡邉則昭教授、末吉和公助教、博士前期課程の詫間康平大学院生(現日立製作所)、宇野正起准教授、同大学学際科学フロンティア研究所博士後期課程の新井裕子大学院生、笘居高明教授、オーストラリア・サンシャインコースト大学の Tian Tongfei 講師、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の州立職業訓練専門学校であるテイフ・ニューサウスウェールズ の Vladimir Sokolovski 博士、北海道大学理学部の直井誠准教授との共同研究によるものです。



図1. 従来の水圧破砕と、STFを用いた水圧破砕のき裂造成状況の比較。従来、き裂は地下の最も大きな応力が作用している方向(最大主応力方向)に進展する。STFを用いた場合は、一時的に固化するSTFにより、坑井の圧力がさらに高くなり、多方向にき裂が造成できた。その結果、多方向の浸透性が改善され、資源開発が効率的に実行できる。


【用語説明】
注1. せん断増粘流体(STF)
流れのせん断応力が流れの速度勾配に比例しない、粘性係数が一定ではない非ニュートン流体の一種で、ダイラタンシー流体とも言います。せん断速度の変化量に応じて粘度が変わり、サラサラした状態の時に強く力をかけると、力をかけたところだけが固くなるといった現象を起こします。片栗粉を水で濃く溶いたものもこの流体です。

注2. 坑井(こうせい)
石油や天然ガスなどの地下資源鉱業において、地下の油ガスを生産したり、地下に流体を圧入するためほぼ鉛直に掘削する穴の総称です。


【論文情報】
タイトル:Creating Multidirectional Fractures through Particle Jamming
著者: Yusuke Mukuhira*, Ryota Goto, Noriaki Watanabe, Kazumasa Sueyoshi, Kohei Takuma, Rongchang Zhang, Tongfei Tian, Vladimir Sokolovski, Makoto Naoi, Yuko Arai, Takaaki Tomai, Masaoki Uno, Takatoshi Ito
*責任著者:東北大学 流体科学研究所 助教 椋平 祐輔
掲載誌:International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences
DOI:10.1016/j.ijrmms.2025.106051


<関連リンク>
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地殻環境エネルギー研究分野
伊藤・椋平研究室ウェブサイト

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(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所 
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E-mail: ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)