流体の流動現象には、原子・分子のスケールで生じる「化学反応」が流体のマクロな「拡散現象」に大きく影響する場合がしばしば見受けられます。また、水素のように極めて軽い原子は、その原子を質点として見なすことができず、その影響が物質の相図などに現れることがあります。このような性質が現れるメカニズムを解析したり、これらの物質で構成されているナノスケールの流動システムの挙動を解析する場合、通常の分子動力学法ではその性質を正確に再現できないため、この物質の「量子性」を考慮した手法を用いて解析する必要があります。本研究分野では、このような流体の「量子性」が熱流動現象に影響を及ぼす系を対象にして、その量子効果を取り込んだ様々な手法を用いてその性質を解明し、工学的に応用することを目的として研究を行っています。
プロトン輸送現象解明のためのプロトンホッピングモデルの構築
プロトン(H+)は水中では水分子(H2O)と結合してオキソニウムイオン(H3O+)として存在しますが、このオキソニウムイオンは「プロトンホッピング」という化学反応を利用した移動機構により水よりも4~5倍速く水中を拡散します。本研究では、様々な量子計算によりその性質を解明し、古典分子動力学法の範囲でこのプロトンホッピングを取り扱えるモデルの構築を目指しています。
原子層堆積法および化学気相堆積法における成膜機構の反応性力場分子動力学研究
半導体製造プロセスには成膜、エッチング、洗浄など、複数のプロセスが存在するが、中でも成膜プロセスに対してはウェーハ上において膜厚誤差±0.5Åという原子層レベルの制御が求められている。このような最先端の需要を実現可能な成膜手法として化学気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法および原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法が広く利用されている。ただし、それらの成膜現象は拡散現象および反応現象が複雑に絡み合っており詳細に理解することは難しい。そのため本研究では、両者を融合した反応性力場分子動力学シミュレーションを実施し、成膜機構の普遍的な理解を目指している。
BDEASを用いたALDプロセスの量子化学計算
シラン系前駆体を用いたCVDプロセスの反応性力場分子動力学計算
生体分子システム内におけるタンパク質の液液相分離構造形成現象および選択的イオン透過現象に関する研究
小さな分子、特にイオンが複雑に入り組んだ構造の中を輸送するとき、どのような経路を輸送し、どのくらいの速さで(伝導・拡散)することができるのか?ナノスケールの世界で起きているイオン輸送現象は、生体分子(生命科学)で重要な役割を担っています。本研究では、こういった実験では見ることの難しい時空間スケールの現象を理論(分子シミュレーション)を用いて解明し、高活性・高選択性などの高機能な人工分子の理論設計を行うことで、創薬への展開を目指しています。 理論・計算化学の手法、特に分子動力学(MD: Molecular Dynamics)法を基盤として研究を行っています。生体分子システムで起きている幅広い時空間スケールの動的性質(ダイナミクス)を解析するためには、時空間スケールの異なる計算手法を組み合わせたマルチスケールシミュレーション技術が重要です。量子化学計算や反応MDを用いたnmスケールの化学反応およびイオン輸送現象から粗視化MDを用いたμmスケールのタンパク質高次構造(液液相分離構造)形成現象までマルチスケールの動的現象に興味を持っています。
詳しくはこちら http://mabuchigroup.fris.tohoku.ac.jp/
詳しくはこちら http://mabuchigroup.fris.tohoku.ac.jp/
Multiscale modeling and simulation for biomolecular systems


西澤 裕紀 氏(量子ナノ流動システム研究分野 博士前期課程2年)が ECS PRiME 2024 での Polymer Electrolyte Fuel Cells and Electrolyzers Poster Session にてポスター賞 (Third Prime Award) を受賞
東北大学リサーチプロフェッサーの称号付与式が行われました (2021.11.26)
徳増崇教授に「東北大学リサーチプロフェッサー」の称号が付与されました