流動創成研究部門

航空宇宙流体工学研究分野

  • 教授大林 茂

  • 助教焼野藍子

数値流体力学 (CFD) とは、ある対象物体の内部あるいは周囲で運動する流体の様子をコンピュータで再現し、現象を解明したり、流体機器を設計したりする学問です。コンピュータの性能向上に伴って CFD の技術は精度や利便性が日々進化しています。本研究室では、CFD 技術のさらなる利用展開のため、CFD 技術と他の科学技術の融合研究を積極的に推進しています。この一環として、航空宇宙流体で問題となる、流体の非線形現象に関連する種々の未解決問題の解明、航空機空力設計のための流体情報抽出技術、データ同化など、スーパーコンピュータ、風洞実験、最新のデータ科学を駆使した航空宇宙流体工学のさらなる革新を目指しています。

航空宇宙流体の現象解明とデータ科学を駆使した先進的数値計算工学に関する研究

民間航空機が運航する際にエネルギーの損失となる抵抗のうち、約半分は空気の粘性による摩擦抵抗です。航空機周りは層流状態と乱流状態が混在していますが、工夫により乱流への遷移を遅らせ層流を維持できれば抵抗を低減できます。そこで私たちは、スーパーコンピュータによる大規模並列直接数値計算や流体安定性の評価により、後退翼周りで発生する遷移現象の壁面粗さによる影響など詳細を調べ、優れた層流翼を実現するための研究を行っています。そのほか、流体場の特徴構造抽出法の一つである動的モード展開に着目した、亜音速ジェット噴流から発生する音の発生機構の解明や、構造強度を考慮した航空機胴体の最適化も実施しています。

低次元化モデルと観測値を用いた流体計算の高速化・高精度化に関する研究

本研究室ではこれまで、流体の数値計算の課題である高速化・高精度化を達成するため、実験や観測により得られた疎情報を再現するように、数値モデル計算の初期値を修正する、データ同化手法に関する研究を実施してきました。現在は、実際に航空機事故の発生した事例解析を実施して、晴天乱気流の発生予測に取り組んでいます。また、航空機体の最適設計のためには高速かつ高精度な数値モデルが必要です。本研究室では、データ同化によるパラメータチューニングによる、最新の非定常乱流モデルの構築にも取り組んでいます。さらに、データ同化を利用した、燃焼器内の噴霧ペネトレーションモデルの高精度化も実施しています。

磁力支持天秤装置を用いた空力実験・高解像非定常数値計算による流体場の詳細解析

本研究室では、磁気力によって風洞内に模型を浮上し、姿勢制御可能な磁力支持天秤装置(MSBS)の開発を行ってきました。これまでに、振動を抑え安定に支持でき、即応性が高く、非定常な運動を制御する技術、細長比の低い試供体を支持する技術を開発しました。さらに、スーパーコンピュータを用いた大規模並列計算による高精度な非定常数値計算を実施し、低細長比円柱の空気力学特性との比較を行うなど、流体物理の新しい地検の取得、そして実験と数値計算の融合による革新的な設計技術の構築を目指した研究開発を行っています。